ジャングルでは「問い立て」から始める
山極壽一(以下、山極):これからの時代の特徴というのは、先が見えないということです。1990年代ぐらいまでは、将来予測がよくされていました。でも、今将来予測をしても、気候変動が典型的な例ですが、何が起こるかわかりません。経済状態もそうだし、政治もそうです。先が見えない時代で、どういう問いを立てたらいいのか。これは実はジャングルとよく似ているんです。学生と一緒にジャングルを歩くとき、何でもいいから問いを立てなさいと言うんです。目に映っていること、あるいは頭に浮かんだこと、それを問いというかたちに直してみろと。そして、その答えを自分で探す。あるいは、みんなと一緒にその問いについて検討する。そのなかで未来、あるいは自分が探しているものが見えてくるかもしれない。
要するに、ジャングルを歩いている自分自身がわからない。それを知るためには、問いを立ててみることなんです。ジャングルにはゴリラだけじゃなくて、虫も鳥も動物も植物もあって、どんどん風景が変わっていく。問いを立てるときに必要なのは、「依存」と「自立」です。友達や仲間に、あるいは森を歩くときには現地の人をガイドにしていくわけだから、自分の危険やら自分の疑問やらを他者に依存することになります。だけど依存だけでは駄目で、自立をしなければいけない。自立とは、自分なりの問いにこだわることです。自分の見たもの、自分が体験したもの、感じたものにこだわること。それが自立の一歩です。
この20年ぐらいの社会は、依存を排して、自立ばかりを求めていました。でも、それでは問いを立てる意味がない。自分だけで問いを立てても、どうせ行き詰まってしまう。でも、依存しすぎてもいけない。自立と依存をうまく塩梅していくのがこれから必要なことだと思います。
人間の進化のなかで、人間が獲得してきた大きな特徴が共感と信頼です。例えば、人間は誰かが取ってきた、自分が知らないものでも、その食物を持ってきてくれた人を信頼して食べる。人の五感に対して、自分も共感できる能力をもっているからこそ信頼して食べられる。共感と信頼というのは表裏一体のものだと思います。