リーダーシップ

2024.01.27 13:30

「ジャングルと未来の歩き方は似ています」未来会議の緊急提言!人を導く「問いの力」

「今」を生きているの真意

谷本:梶田さんはいかがですか。

梶田真章(以下、梶田今は先が読めない時代といいますが、実は昔から先が読めないのはいつも一緒です。先が読めないのが当たり前だった時は、何が起こったってそれがこの世だということをある程度覚悟しながら生きていました。ある種、ゆだねながら自分なりにできることをやって生きるしかないと覚悟する。今みたいに自分が勝手に物語をつくって、次こうしたらこうなるんだと思って生きていこうとするから足元をすくわれてしまうんです。もともと人はそうやって生きてきたのですから、歴史から学ぶことも必要でしょう。

仏教には「たまたまあった」はまったくなくて、すべては因縁だとお釈迦様が言い切りました。出会うべくして出会ったと思って生きていくところに、人生を生きていく覚悟がある。それこそ仏教が説いてきたひとつの指針だと思います。

人生は自分がつくっていくものだと思っているけれど、やっぱり不条理だと思ったときに生まれたのが宗教です。私の運命は神様が決めていくと考えていくのか、前世からの業だと納得していくのか。不条理は過去の行いが原因となっていると考えて、昔のインドの人は輪廻の思想をまとめ上げました。そこに植物も動物も分けない中国の思想の影響が入って、すべての生きとし生けるものはある時の私だから、すべて仲間同士で、人間が特別の存在ではない。そのなかで私はどういう分を守って生きていくのかと考える。それが私なりの輪廻思想だと思っています。

山極:梶田さんが言う因縁というのは、因果と縁ですよね。これは、人間が言葉をしゃべり始めてから生まれたことです。それは相反することでもある。それまでは、因果関係は、人間にとっても人間以外の生物にとっても、生きる基準ではなかったんです。原因を求めたりせず、現実をどう乗り切っていくかに集中していた。

梶田:そうですね。今を生きていた。

山極:だけど、因果関係が人の生きる基準になってしまったことで、すごく変わってしまった。そこで縁も測られてしまうんです。生物の世界はいろんな関係をもっていて、自分が見えないところでもいろんなつながりや関係性というものが同時に起こっていて、それが自分の身に降りかかってきて、それを五感で感じながら生きている。言葉で説明すると、因果関係に落とし込まれてしまう。その縁が今は希薄になり始めています。だから、新たな縁というものをつくらなくてはならない時代に来ているのではないかと思います。

塩瀬:過去や未来を因果関係で見れば見るほど、今を見なくなってしまって、どんどん今を生きなくなっていってしまう。ずっと過去と未来の話をすることになってしまいますね。

梶田:過去に縛られて、未来を心配すると、今を生きない。
梶田真章◎法然院貫主。1956年、京都府生まれ。大阪外国語大学ドイツ語学科卒業後、法然院執事を経て1984年に第31代貫主に就任。アーティストの発表の場として寺を開放するなど、現代における寺の可能性を追求しつつ、環境問題に強い関心をもちさまざまな活動に従事。

梶田真章◎法然院貫主。1956年、京都府生まれ。大阪外国語大学ドイツ語学科卒業後、法然院執事を経て1984年に第31代貫主に就任。アーティストの発表の場として寺を開放するなど、現代における寺の可能性を追求しつつ、環境問題に強い関心をもちさまざまな活動に従事。

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文=成相通子 写真=ヤン・ブース

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年3月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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