その後、関西在住の人たちにも広がって、「大阪や京都にもガチな店はあります」と多くの投稿があり、「ディープチャイナ関西支部(仮称)」が自然発生的に現れた。
年始に、そのメンバーの人たちから新年会に招待していただいたので、関西を訪ねる機会を得た。
新年会の会場は、以前に本コラムでも紹介した大阪のエスニックタウン今里(大阪市生野区)にある中国東北料理の店「紫金城」だった。
そこで供されたのは、まさに「ガチ中華」ワールドそのものといえる料理だった。
料理は、全15品と豪勢なもので、おおよそ次のようなものだった。
羊肉串(ラム肉の串焼き)
東北拉皮(中国東北地方の板春雨サラダ)
酸辣粉(発酵白菜と春雨炒め)
大豊収(東北地方の豚スペアリブと野菜の煮物)
扒肘子(豚の前腕の醤油煮込み)
四喜丸子(中国南方のスープ入り豚肉団子)
麻辣鴨(鴨肉の麻辣煮込み)
剁椒魚(湖南風魚の発酵唐辛子蒸し煮)
鍋包肉(東北風揚げ酢豚)
干煸四季豆(インゲンの麻辣炒め)
豆苗水餃(豆苗入り餃子)
羊肉水餃(羊肉入り餃子)他
ゆるいところも「ガチ中華」の魅力
実は、大阪にも東京のようなディープチャイナの世界はある。筆者は、ここ数年、大阪のガチ中華を訪ねてずいぶん歩き回った。大阪で「ガチ中華」の店が多数出店されているのは、難波から日本橋にかけてで、特に道頓堀の北側にある宗右衛門町通りの周辺だ。
そこでは東京と変わらない「ガチ中華」の世界を味わった。たとえば、道頓堀の西安料理店「饃道(MAIDOU)西安小吃」(大阪市中央区道頓堀1-1-9 豊栄ビル4F)だ。
この店では、中国西北料理の代表的な冷菜の涼皮(リャンピー)や羊肉串、羊のホルモン入りスープの羊雑湯(ヤンザータン)、西安風ハンバーガーの肉夾饃(ロージャーモウ)などをいただいた。
店は道頓堀に面しているのに、中国の若者客ばかりだった。最近の彼らは酒を飲まないせいか、店にはビールしか置いていなかった。だが、こういうディープな料理にはアルコール度数の高い中国の白酒がほしくなる。
筆者が店員の女性に「外で白酒を買ってくるから、店で飲んでもいい?」と中国語で聞くと、「可以(いいですよ)」という。すぐに向かいの中華食材店で手頃な値段の白酒ボトルを買ってきて、一緒に訪ねた中国通の友人と飲んだ。こういうゆるいところも「ガチ中華」の魅力だ。
ちなみにこの店のオーナーは西安出身だが、店で働いている女性たちは、案の定というか、黒龍江省出身だった。東京と同様、大阪の「ガチ中華」の調理人やスタッフの多くは、中国東北地方出身が占めていることがわかる。
同じく大阪でも30代の若いオーナーが始めた「ガチ中華」の店も増えている。
日本橋の路地裏に昨年11月11日にオープンしたのが、湖北省武漢名物「熱干麺(ルーガンミェン)」の店「MATATA」(大阪市中央区日本橋1-4-4)だ。熱干麺は濃厚なゴマソースをからめた現地の汁なし麺で、日本人の口にも合う。
東京にも熱干麺を食べさせる店がいくつかあるが、「MATATA」の店員の中国人女性によると「大阪で熱干麺が食べられるのはうちくらい」とのこと。店は若い武漢出身の店主と同郷の彼女と2人で切り盛りされている。
店内はこぎれいで、いまの中国によくあるカフェチェーン風の簡素なつくり、注文はQRコード式だが、日本人にもわかりやすいメニューが用意されている。