経営・戦略

2024.01.18 08:30

ニセコにルイ・ヴィトン。グローバル資本と日本の「さまざまな現実」

Photo by Carl Court/Getty Images

米国の巨大IT企業が海外市場での儲けをローカルに税金を納めるというかたちで還元しないだけでなく、市場の個人データまで自分たちのビジネスのために持ち去ってしまう。あるいは各国の都市の重要な商業エリアがグローバルに力のある高級ブランドの店舗によって占拠され、ローカルに根付いてきた商売が継続できなくなっている。
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ホスピタリティ産業についていえば、エアビーアンドビーなどのサービスの普及によって住居が短期滞在の観光客に大量に貸し出されることで、そこに住む生活者のための不動産物件そのものが極端に減っている。

こうした事例は日本で進行中の「地域資源の食い逃げ」と同じなのか、違うのか? という問いがたつと思います。どの程度のサイズで問題を考えるのが適当なのか? です。

2つ目にコメントします。
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名の知れたリゾート地に戦略的店舗をもつのは、スイスのサンモリッツやフランスのサントロペなどでよくみる手法です。世界中のお金をもつ流行に敏感な人たちの目に触れる機会が増えるからです。スイス人やフランス人だけをあてにしていないことを、こうした進出企業は公言しています。

そして、この手法は特別なものではなく、1つ目で触れた各主要都市における街中や空港の店舗に至るまで共通しており、20世紀末から欧州の高級ブランド店舗は観光でやってくる日本人、中国人、アラブ人、ロシア人などを上客としてきました。
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言うまでもなく、この市場アプローチは日本の企業も同様に採用しています。例えば、日本酒の普及にロンドンやパリをマーケティングの重要拠点にするのは、英国人とフランス人だけを想定しているわけではなく、それらの都市の有名なレストランには各国のセンスのある人たちが集まってくるという期待があるからです。

中野さんが懸念する2つの点に対してこれらの事例を引き出してきたのは、単に「現実は、こんなもの」と言いたいわけではありません。日本の企業人に限らない人たちが、モノやソフトだけでなく身体を伴った人も含めたグローバリゼーションをほんとうに体感するようになったのは2010年代半ば以降のインバウンドでしょう。だから、「現実は、こんなもの」と思う実体験が少なかったのは確かです。過渡期であるがゆえと思えば、現象に馴れるのに時間を要する課題とも言えます。

また、海外資本のローカルへの投資の良し悪しは一定期間後に個別に判断しないと分からないでしょう。ローカルで雇用を生むというのは、その海外企業にある運営ノウハウを学び、それを転職後や独立後にローカル企業として活用するとの側面もあるのは見逃せません。

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文=中野香織(前半)、安西洋之(後半)

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