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2024.01.24

米国発「トラクター界のテスラ」保守的な農家もうならせたふたつの武器

プラヴィーン・ペンメツァ|モナーク・トラクター

2023年度版、米フォーブス「次のユニコーン企業」に選ばれたMonarch Tractor(モナーク・トラクター)。世界初、電動・自動運転のスマート・トラクター量産ベンチャーが、農業の未来を拓く。


ある晴れた初夏の午後、カリフォルニア州にある米国で最も歴史のある家族経営ワイナリーで、Monarch Tractor(モナーク・トラクター)の共同創業者兼CEOのプラヴィーン・ペンメツァ(45)が自社のEVトラクターを売り込もうと熱弁をふるっている。

モナークは人呼んで「トラクター界のテスラ」。世界初、電動・自動運転のスマートトラクターをローンチした米国のスタートアップだ。同社の顧客は、ワイン用のブドウ園および果物と野菜の栽培農家。どちらも、トウモロコシや大豆の栽培農家が使う巨大な機械ではなく、より小型の機械を必要とする。モナークのトラクターは1台8万9000ドルもするが、100%電動で、自律走行での刈り入れと除草ができる。価格は同様のディーゼル・エンジン式トラクターの約1.8倍だが、長い目で見れば割安だ。作業効率を高め、外部の労働力や燃料依存も減らせる。

農家は長い間人手の確保に苦労してきた。また、ディーゼル・エンジンで動くトラクターは農業分野での大気汚染の主な原因だ。モナークは自社のトラクターが両方の問題を解決すると謳う。

農業用機器メーカーの立ち上げはハードルが高い。多大な資本を必要とするうえ、農家は保守的で、変化を嫌うとされてきた。だが、モナークは投資家から1億1600万ドルを調達し、2021年11月に行われた直近の調達ラウンドで2億7100万ドルの評価額を得て、今まさに重大な転換点にある。

昨年の売り上げは2200万ドルと、21年の500万ドルから大幅に増えた。ペンメツァは、23年の売り上げは3倍から5倍、つまり6600万ドル以上に急増するとみている。トラクターの販売台数が現在の100台強から1000台に増えれば、1億ドル以上の売り上げも夢ではない。

事業拡大に伴い、ソフトウェアのサブスクリプション収入(トラクター1台につき年間最大8376ドル)が売り上げに占める割合が増えることも見込む。病気の作物や安全上のリスクを農家にリアルタイムで警告するとともに、収穫量を増やすために膨大なデータを収集・処理するソフトウェアだ。

キーワードは「自律走行」

ペンメツァはインドのグントゥールで生まれ、レーシングカーに夢中な子ども時代を過ごす。02年に米シンシナティ大学で機械工学の修士号を取得したのち、カリフォルニアに本社を置く、高性能な自動車技術を誇るミレンワークスに就職した。同社では米国防省の研究機関のためのロボットの試作品開発に従事。ミレンワークスが10年にテクストロンに買収されたタイミングで、ペンメツァは自らの会社としてMotivo(モティーボ)を立ち上げることにした。共同創業者となったのは、カーネギー・メロン大学のロボット工学の博士号をもち、ミレンワークスの元同僚だったザッカリー・オモフンドロ(43)だ。

商業的成功のためのキーワードは「自律走行」だった。ディーゼル燃料を使わないというだけでは十分な説得力はない。しかし、人手も要らないとなれば農家に訴求できる。「農家が銃よりも好きなものがあるとすれば、それは"自律"です」と、ペンメツァは笑う。
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文=エイミー・フェルドマン 写真=クリス・クリスマン 翻訳=フォーブス ジャパン編集部

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年1月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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