モンダヴィのノウハウを頼りに、ターゲットはブドウ園に絞った。ブドウ園とはどういう農場か。整然と列をなして植えられたブドウの木、高い人件費、「環境に配慮した」商品なら高めでも喜んで購入する顧客──高付加価値のトラクターとは、すこぶる相性がいい。
そして機能は欲張らず、まずは農家にとって最も基本的な作業のひとつである「刈り取り」に集中することにした。実際、農家からの自動化ニーズが最も高かったのが刈り取りの自動化だったからだ。
ディーゼル燃料の価格急騰に加え、カリフォルニア州の補助金が売り上げの加速に拍車をかけた。この補助金はモナークの働きかけで実現したもので、電動トラクター購入費の実に75%がカバーされる。モナークの22年の売り上げは21年の4倍を超えた。23年はさらに数倍を見込む。
高まる需要に応えるため、モナークは23年8月、世界のiPhoneの大半を製造することで有名な台湾の鴻海精密工業と、SUVサイズのトラクターの製造について契約を結んだ。続けて世界第2位のトラクターメーカーであるCNHインダストリアルと技術供与のライセンス契約を結び、市場を沸かせた。
問題は充電だ。モナークのトラクターは、コンセントはおろか道路さえ遠く離れた農場を何時間も走り回る必要がある。ひとつの解決策は太陽光充電だが、今のところ大半のロボットは専用ステーションに戻らなければ充電できず、ステーションの導入には数千ドルかかる場合もある。
さらに、カリフォルニア州の規制ではトラクターの完全自律走行がまだ認められていない。モナークが完全自律走行を認めるよう申し立てた結果、州当局は「安全性についてさらに多くのデータを収集したうえで再検討をする」ことに同意している。
とはいえ長期的にみれば、農業の人手不足が一向に解消しないなかで、ロボットの台頭は避けられない。当初、投資家からは自虐的だと言われた、とペンメツァは振り返る。
「『農家はテクノロジーを導入しない』という通説にはずいぶん苦しめられました。もちろん農家も、投資に見合う利益があるなら新しいテクノロジーを取り入れるはずです」
プラヴィーン・ペンメツァ◎インド生まれ。自身は都会育ちだが、祖父母の代までは何世代も続くコメ農家で、初めて握ったハンドルはトラクターのハンドル。2002年に米シンシナティ大学で機械工学の修士号を取得。レーシングカーや軍事用車両を手がけるミレンワークスを経て、10年にモナークの前身となるモティーボを設立。18年にモナーク創業。