テクノロジー

2024.01.07 09:00

「人の精神をデジタルで保存」する技術が議論の的になる心理学的理由

安井克至

Getty Images

将来的に「精神のアップロード」するテクノロジーが現実のものとなった場合に、こうした技術を道徳的に容認できるか否かを、1000人余りを対象に調査した新たな研究が、学術誌『Frontiers In Psychology』に掲載された。

ここでいう精神のアップロードとは、記憶や思考、個人の意識といった人間の脳内にある情報やコンテンツを、デジタル的あるいは人工的な基質に移し替えるという、現在はまだ仮説段階の概念だ。

精神をアップロードするという概念については、ネットフリックスのドラマ『ブラック・ミラー』のエピソード『サン・ジュニペロ』や、Amazonプライム・ビデオで配信されたドラマ『アップロード ~デジタルなあの世へようこそ』で見聞きしたという人もいるだろう。

「精神をアップロード」すれば、ある人物の精神が機能を保ったまま、丸ごとコピーあるいはシミュレートされ、生物学的な身体の制約を超えて精神が生き続けることが可能になる。人間のアイデンティティや意識そのものの本質をめぐる、科学的・倫理的・哲学的な無数の論点を提起する概念だ。

前述の学術誌『Frontiers In Psychology』に掲載された研究では、精神をアップロードするテクノロジーを受け入れるにせよ、否定するにせよ、そのような心情が形成される理由について、2つの要素を挙げている。説明していこう。

1. 「死後の世界」を信じるか否か

死後に人の意識や魂、霊的存在に何が起きるかという点をめぐっては、幅広い観点が存在する。「肉体の終焉」以外には何もないという見方から、生まれ変わる、天国や地獄などの新たな領域に旅立つ、より大きな宇宙の意識と一体となるといったものまで、死後に対する考え方は実にさまざまだ。

研究チームは、個々人の道徳観とその人の形而上的な世界観とのあいだには関連性があることを明らかにした。今回の研究では「精神のアップロード」を道徳的に許容する度合いが最も高いのは、死後の世界を信じない人たちであることが判明した。

反対に、死後の世界の存在をかたく信じている人は、このテクノロジーに対する許容度が最も低かった。そして、死後の世界があるかどうか確証が持てないという人の許容度は、両者の中間だった。
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翻訳=長谷 睦/ガリレオ

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