テクノロジー

2024.01.07 09:00

「人の精神をデジタルで保存」する技術が議論の的になる心理学的理由

Getty Images

精神のアップロードを道徳的に許容する姿勢は「デジタル世界で不滅の存在となることが、宗教に頼らずに永遠の命を手にいれる現実的な道だ」という思いからきているのかもしれない。逆に、死後の世界の存在を信じている人は、このテクノロジーには必要性がないと考えており、まったく容認できないとする人もいるほどだった。
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例えば、道徳的な純粋性を強調する一部の教団では、精神のアップロードは、自殺や自然界の秩序や神の意志を勝手に書き換えるのに近い冒涜的な行為だと考えるかもしれない。

加えて、死後の世界の存在をかたく信じている人では、死に対する不安が低い傾向がある。これを裏返せば、死や「永遠の無」に対する恐怖が、デジタル的な手段で死後の世界を確保したいという気持ちを駆り立てているとも考えられる。

2020年に『Personality and Social Psychology Bulletin』に掲載されたに発表されたある研究では、無神論者では、医学的な手段による無限の寿命延長を提示されると死への恐怖が和らぐが、超自然的な死後の世界の概念によっては、死への恐怖が和らがないことが判明している。神を信じない人たちのあいだで、精神のアップロードへの容認度が高いのは、このあたりに理由があるのかもしれない。
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精神のアップロードに対する道徳的な許容度に影響を与える要素としては、ほかにも文化や個人の考えに裏打ちされた信条や、それぞれの人の性格的特徴などがある。

例えば、今回の研究では、精神アップロード技術を道徳的に許容する考えと、功利主義やマキアヴェリズム的な信条とのあいだに関連性が認められたほか、SF的な物語に触れてきた体験が、人の意識を転送するテクノロジーの進展を受け入れる上でプラスに働くことがわかった。

2. 実存的な重要性

「実存的な重要性(Existential mattering)」とは「人生や社会、あるいは全世界といった、より広い文脈において、自身の存在に重要性や意味がある」という感覚を指す言葉だ。今回の研究チームは、こうした「実存的な重要性」のレベルが高い人ほど、精神のアップロードへの許容度が低いことを発見した。特にこの傾向は、死後の世界の存在について確証が持てない人のあいだで顕著だった。
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翻訳=長谷 睦/ガリレオ

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