200年来の地質学の謎「ドロマイト問題」を解明 北大などの研究チーム

南チロルのドロミテ山脈(D.Bressan)

科学者たちは過去200年間にわたり、ありふれた鉱物であるドロマイト(苦灰石)を、自然に形成されたと考えられる条件下で成長させようと試みてきたものの、失敗に終わっていた。このたび、米ミシガン大学と北海道大学の共同研究チームが、原子シミュレーションによって開発した最新アプローチを用い、ついにドロマイトを成長させることに成功した。

この研究成果は、地質学の長年の謎を解き明かすもので、新しい結晶性材料を生成する助けになる可能性がある。

ドロマイトを鉱物として最初に文献に記載したのは1792年、フランス人探検家のデオダ・ドゥ・ドロミューがイタリアとオーストリアの山岳地帯で収集した岩石サンプルを分析したスイス人博物学者ニコラ・テオドール・ド・ソシュールだった。

ドロマイトは、カルシウムとマグネシウムの炭酸塩鉱物で、イタリアのドロミテ山脈、カナダと米国の国境にあるナイアガラ断崖、英ドーバーにある断崖ホワイトクリフなどを形成しており、1億年より古い年代の海底堆積物に非常に豊富に含まれている。だが奇妙なことに、現代では海水の蒸発時に散発的にしか形成されず、実験室条件下で生成するのはほぼ不可能だ。成長が難しい鉱物が、厚さ数kmの堆積層や地形全体を形成しているというこの矛盾は、地質学者らの間で「ドロマイト問題」と呼ばれていた。


ドロミテ山脈から採集した苦灰岩のドロマイト結晶(D.Bressan)

ドロミテ山脈から採集した苦灰岩のドロマイト結晶(D.Bressan)


ドロマイトを成長させる方法は、原子がどのように安定した結晶ネットワークを形成するかをシミュレーションできる最先端のソフトウエアを使って解明された。これまでのシミュレーションとは異なり、今回の研究では時間の経過に伴う原子構造の変化も考慮した。

シミュレーションソフトの開発責任者の1人で、ミシガン大材料科学工学部研究員のブライアン・プハラは「このソフトウェアでは、まずいくつかの原子配列のエネルギーを計算し、次に結晶構造の対称性に基づき、この計算結果から別の配列のエネルギーを推定・予測する」と説明した。

ミシガン大が公開した動画では、沈殿と溶解のサイクルがどのようにしてエネルギー的に安定なドロマイト結晶を(地質学的に見て)短期間で生成できるかを説明している。

コンピューターによるシミュレーション結果が正しいことを証明するため、研究チームは実験室でのドロマイト生成を試みた。

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翻訳=河原稔

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