宇宙

2023.12.18

「微生物ダークマター」研究から生命の謎に迫る宇宙生物学者

アゾレス諸島のテルセイラ島にある地下の溶岩洞窟内の様子(Bruce Dorminey)

天文学的ダークマター(宇宙の全物質の約80%を占めると考えられている暗黒物質、光学的に直接観測できない未知の物質)になぞらえた名称で呼ばれる「微生物ダークマター」はこの地球上で、宇宙のそれと同じくらい多くの謎を投げかけている。

生物学的ダークマターとは、新たに発見される微生物群で、過去に一度も確認されたことがなく、形状や形態などによる科学的分類がほとんど行われていないもののことだ。このような地球上の微生物ダークマターの大半は通常、火山性の溶岩洞窟や鍾乳洞でのみ発見される。

洞窟内でまったく生物には見えないものでも、大量のいわゆるダークマターを含む、非常に豊かな微生物多様性を有していることが明らかになったと、米ニューメキシコ大学名誉教授で地球微生物学者のダイアナ・ノーサップは、地下生命に関する最近の学会で筆者の取材に語った。それらは研究するまで分類できない微生物群であると、ノーサップは表現している。

こうした生物学的ダークマターによって、地下生命の全く新しい領域が明らかになりつつある。

10月に開催された「地下の生命(Life in the Sub-Surface)」と題する欧州宇宙生物学学会(EAI)の学術会議では、微生物学者らが直面している最も根本的な問題のいくつかに取り組むために、大西洋に浮かぶポルトガル領アゾレス諸島のテルセイラ島に世界中の研究者が集まった。その問題とは、地球上で生命がどのようにして誕生したのか、ということだ。地球の微生物生物圏について、実際にどのようなことが分かっているのだろうか。実は、それほど多くはない。

アゾレス諸島は、大西洋中央部で3つの構造プレートが交わる三重会合点に位置する。この領域は、同諸島を形成した火山活動の大半の発生源と考えられている。テルセイラ島は、地下生物を対象とする生態調査の多くの拠点となっている。

ノーサップによると、自身が微生物学の研究を始めた当時、バクテリアの門(生物分類の階級で「界」の下に相当)は11だったが、現在では100門をはるかに超えているという。

ダークマターが具体的にどういう状態かといえば、ノーサップが人々を洞窟の中に連れて行くと、人々は壁一面の微生物を見ていることに気付きさえしないことが多いという。このような微生物の一部を観察するために、ノーサップと研究チームは、3000倍まで拡大可能な携帯用の走査型電子顕微鏡を使用する。髪の毛の幅の数分の1程度という大きさの微生物を観察するには、これくらいの倍率が必要だ。

少なくとも地球の洞窟では、むき出しの岩の表面は多くの場合、生物学的に何もないわけではないことを覚えておくべきだと、ノーサップは学会での講演で指摘した。
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翻訳=河原稔

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