海底鉱物資源の争奪戦が激化、一方で環境への懸念の声も

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2023年10月にジャマイカで行なわれた国際海底機構(ISA)の会合を前に、環境保護を訴える複数のグループが熱のこもった呼びかけを行なった。その要求の内容は、「深海における鉱物資源採掘の一時停止」という、これまでにない新しいテーマだった。

この要請は、深海での鉱物資源採掘に対する関心が、表面上は静かながら、急速に高まっている状況を受けて行われた。このテーマに関する国際会議も、2024年に開催される予定だ。

このような資源採掘は、かつてはSFで描かれる話に過ぎなかったが、国連海洋法条約に基づいて1994年に設立された国際機関であるISAが認めた海底鉱物資源探査は、すでに30件に達している(そのうち最多の6件が、中国に対する許可だ)。だがこれは、エネルギー市場および地政学上の情勢を大きく揺るがす開発レースの始まりでしかない。

海底には、ニッケル、コバルト、金、銀、亜鉛、リチウム、銅をはじめ、周期表に記された元素の大半が存在する。これらの元素は、多金属団塊(写真)と呼ばれる、海底に転がっているジャガイモくらいの大きさの塊に含まれている。

これらの団塊には、多くの種類のレアアース元素(REE)が含まれている。REEは、今まさに花開こうとしているグリーンエネルギーの生成のほか、半導体やAI(人工知能)のような先端テクノロジーに欠かせない物質だ。グリーンエネルギーへの転換が促される状況を反映して、これらの戦略的鉱物資源の需要は急激に高まっている。そして、まさに20世紀における石油と同様に、激しい地政学的競争や、金銭上の利権を生じさせている。

REEをめぐる争奪戦は、チリではリチウム産業の国有化に発展した。また、中国による電気自動車(EV)産業の支配を覆そうとする米国主導の動きや、米国内でのREE生産に対する莫大な投資などにもつながっている。海底資源の採掘が実行に移されれば、中国によるREE製錬の独占状況を突き崩すのに役立つかもしれないが、これもまた、地政学上の競争の新たな前線となるリスクをはらんでいる。

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翻訳=長谷 睦/ガリレオ

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