ラグビー代表アナリストが分析!「リーグワン」の見どころとW杯8強への課題


現代ラグビーでは、自陣から脱出する、敵陣に入る局面で「キック」を活用することが、世界的なトレンドになっています。短いキックを蹴ってボールを再獲得する、あるいは長いキックを相手を背走させる空きスペースに蹴り込んで、ボールを動かしながら攻撃し続けることが、特にワールドカップのような短期決戦では重要な戦術となっています。

例えば、イングランド戦の冒頭10分間にもその重用が凝縮されていました。キックの応酬があり、その中でイングランド側は短長の効果的なキックによって、結果的に敵陣でペナルティを得て、キックでの3点を獲得しました。

日本のキック回数を見ると、ワールドカップ平均の1試合24回よりも少し多い、26回となっています。ただ、トップチームであるオールブラックス(ニュージーランド代表)は1試合平均31回、最も多くキックを使うイングランドは1試合平均36回蹴っています。

キックで陣地を獲得するプレーが、実は派手なアタックなどに繋がっていることが、データからもよく見えているのです。

「キックの質」にこだわるべき

さらに深掘りして、キックの質を測る上で重要となる2つの指標、「相手の背後に蹴り込めたキックの回数」と「キックを再獲得した回数」を見てみると、トップ8に残ったチーム、特にイングランドやニュージーランド、アルゼンチンというチームは、短長いずれも平均より高い数値が出ていました。

イングランドはキックの再獲得数が1試合平均7回ほど。つまり、1試合で36本キックするうち、7回は再獲得できているということになります。相手の背後に突破して、そこからボールを動かせる状況は、言わばラインブレイクとほぼ同じ形で、ボールを保持していなくても一気に20〜30m前進することができます。イングランドは1試合で7回、そんなチャンスをものにしていたのです。

日本のキックの再獲得数も1試合平均4回と決して悪くはなく、トライに繋げるという意味では武器になっていたと言えます。一方で、長いキックを相手の背後に蹴リ込めた回数では、平均以下の4.8という数値でした。イングランドやフランスなどのトップチームは、平均7~8回ほどありました。

長いキックの蹴り合いやスペースに対してキックを効果的に使う「キックの質」の勝負ではやはりイングランドやニュージーランド、ウェールズなどのレベルが非常に高い。単純なキックの回数より先のこだわるべきポイントだと感じています。
松田力也選手(Photo by Michael Steele - World Rugby/World Rugby via Getty Images)

松田力也選手(Photo by Michael Steele - World Rugby/World Rugby via Getty Images)


また、「ボックスキックの回数」も過去数年間で飛躍的に増えています。2011年大会の数値では16%だったのですが、2023年大会では25%と数値が増えているのです。中でも、9番(スクラムハーフ)から蹴る機会が増えてきているのがここ10年での傾向であり、こうしたプレーができる選手を配置することも、近年のラグビーとキックのトレンドだと言えます。

こういったキック重用のトレンドは、2015年イングランド大会が終わったタイミングから始まり、2016年以降、回数で1試合4本程度増えています。背景として、レフリングなども影響してるとは思います。ボールを持ったアタック側にペナルティーの笛が吹かれる傾向が増えた場合、ボールを持たずディフェンスの時間を増やした方が有利になるので、断定はできませんが、それも要因の一つかもしれません。

キックもモールも、武器にしきれていない

そして、イングランドや優勝した南アフリカにも言えるのですが、「モール(ラインアウトからフォワード全体で押し込むパワープレー)」の使い方も、地味ではありますが大事になっています。

Tier1(ベスト8)のチームでは1試合平均6回ほどあります。その中で敵陣ゴール前でゴリゴリっと押すものもあれば、フィールド中央で相手を密集させてスペースを広げることでボールを動かす、蹴るといった戦術を使っています。

一方、日本のモールの回数は1試合平均2.8回。つまりモールは、トライを獲るためだけでなく、自陣から脱出するにしても、スペースを作ってボールを運ぶにしても、活用されなかったと言えます。

キックに関しても武器にはなりきらなかった。世界的なトレンドと比較すると、それが日本の現在位置ではないかと考えています。

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編集=宇藤智子

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