楽天銀行の勢いが増している。2023年4月にプライム市場に上場を果たし、6月には口座数が1400万を突破した。躍進の立役者が、14年から代表取締役社長を務める永井啓之だ。業界のディスラプター(破壊者)となるサービスを次々に打ち出す永井が目指す、個人と組織や社会の理想の関係とは。
──永井社長が描く理想の社会とは。
永井啓之(以下、永井):私個人の見解だが、自立した個人が自己責任のもとで判断して切磋琢磨する社会があるべき姿だ。日本は個人が政府に過度に期待している。また、日本は同質的な社会だ。全体の平和のためにはそれが尊ばれているが、頑張った人が頑張っただけ評価されることが望ましい。ただ、それらは一つひとつは正論でも、突き詰めていくと社会が成り立たなくなる。正論を踏まえたうえで、一人ひとりが、自制心と他人や社会への配慮をもつ社会を実現すべきだと思う。
──楽天銀行としては何を目指すのか。
永井:安心安全で、最も便利な銀行を目指す。「安心安全」は銀行としての必要条件だ。「最も便利」に我々の価値があると考えている。
それを目指すうえで越えなければいけないハードルがある。日本では、社会人になって会社指定の口座をつくったら一生、その口座を「いつもの銀行」として使う人が多い。背景には、どの銀行もサービスに大差がなかったことがある。我々はサービスによって銀行を使い分けていただくほうがいいと考えている。自立した個人が自己責任のもとで判断する社会が理想だと申し上げたが、今はまだ銀行が自分で判断する対象になっていない。「銀行はどこも同じ」という根強い認識をどこかで打破しなければならない。
──口座数が1400万に到達した。社会に変化が起き始めているのでは。
永井:口座開設という面倒な手続きをしてくださったお客様が1400万人いらっしゃることはありがたく受け止めているが、社会が動き出したというレベルには遠い。中期経営計画で発表した「27年3月末に2500万口座」という目標も途中経過にすぎない。国民全体の半数にご利用いただけるようになれば、社会が変わったと実感できるかもしれない。
──4月に上場した。楽天グループのモバイル事業が軌道に乗るまで時間を要している。親会社の資金調達で、意図せず上場させられた面はないのか。
永井:楽天として資金調達することだけが目的なら、グループ内に候補はたくさんあった。親会社から見れば、上場することにより従来を大きく超えて事業を成長させ、世の中に価値を提供できるのは楽天銀行だということだったのではないか。もともと我々も事業を成長させるための選択肢のひとつにIPOがあった。上場で資本を調達し、認知度を高め、将来の選択肢を増やすことができる。しかし上場は株主がオーケーしないとできない。親会社が了解してくれたから選択できた。