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2023.12.11

富士フイルムホールディングスの成長と社会貢献を両立させる秘訣は

後藤禎一|富士フイルムホールディングス 代表取締役社長・CEO

CSR計画「SVP2030」で経済的成長と社会課題の解決の両軸を掲げる富士フイルムホールディングス。成長と社会貢献を両立させる秘訣は。同社の稼ぎ頭でもあるヘルスケア事業の成長をけん引したCEOが語る。

イノベーションで成長と社会貢献を同時に叶える。これが富士フイルムのミッションであり代表取締役社長・CEOの後藤禎一が考える「いい会社」だ。それにはスピードが欠かせないと後藤は言う。

「トータル17年の海外赴任を終えて医療機器事業を任されたとき、とにかく開発や生産、マーケティングを短時間でてきぱき回すことを意識していました。周りにもそう言い続けた結果、社員にスピード感がついた。このような意識の浸透が業績につながったのだと思います」

富士フイルムの事業領域は4つある。医療機器や医薬品などを扱うヘルスケア、半導体製造プロセス材料などを展開するマテリアル図、複合機やDX関連サービスなどを提供するビジネスイノベーション、そして写真関連のイメージングだ。最も好調なのはヘルスケア事業で、23年3月期の売上高に占める割合は32%にのぼる。

富士フイルムとヘルスケアとの関わりは意外と古い。同社は創業から2年後の1936年にX線フィルムを発売し、83年には世界で初めてX線画像をデジタル化するシステムを発売するなど、独自の技術を磨きながら着実にヘルスケア領域の事業育成に取り組んできた。医用画像情報システム「SYNAPSE」は世界シェアナンバーワンを誇り、AIを用いた富士フイルムの医療システム機器を導入している国は22年度で93カ国に達する。

ヘルスケア領域は社会性と事業性の両立が課題になることが多い。だが、富士フイルムはイノベーションを通じて製品やサービスのコストパフォーマンスを上げ、この難題に真っ向から取り組んできた。そして、同社のヘルスケア領域の事業拡大を率いてきたのはまさしく後藤自身である。

例を挙げよう。富士フイルムは新興国で健診センター「NURA」(ニューラ)を展開している。いわゆる人間ドックだ。23年9月時点でインド3拠点とモンゴル1拠点で事業を展開。利用者数は約1万2000人にのぼる。

ニューラでは富士フイルムがもつコンピュータ断層撮影(CT)やマンモグラフィなどの医療機器と、医師の診断を支援するAI技術を活用してがんや生活習慣病の有無を検査する。所要時間はわずか2時間、診療代は約200ドルだ(インドの場合)。健診後はその場で医師から結果の説明を受けることができる。この事業に後藤は構想段階からかかわってきた。

「21年3月に日立製作所の画像診断関連事業を買収し、健診に必要な主要機器が全部揃った。これらのセットを健診事業に使えば次のイノベーションを考える糧にもなる。じゃあ、やろうと」

もうひとつ、後藤の肝いりが新興国での結核検診の支援活動だ。世界では年間1000万人近くが結核に罹患するとされる。うち400万人は検査すら受けることができず、150万人近くが命を落とす。富士フイルムは小型でもち運びがしやすく操作も簡単な携帯型X線撮影装置と、AI技術を活用した診断支援ソフトを組み合わせ、医療アクセスが乏しい国や地域の人々に結核検診の機会を届けている。

「ヘルスケアは間違いなく成長分野です。皆さんの幸せのためにどんどん売ろうという思いは、社員からも強く感じます」
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文=瀬戸久美子 写真=ヤン・ブース

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年12月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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