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2023.11.01

損失300億円を大逆転。バンダイナムコのIP軸戦略で恩返し経営へ

川口 勝 バンダイナムコホールディングス代表取締役社長 グループCEO

今年7月初め、バンダイナムコホールディングスを率いる川口勝はロサンゼルスのコンベンションセンターにいた。北米最大のアニメイベント「Anime Expo 2023」を視察するためだ。来場者数はのべ35万人。『ガンダム』『DRAGON BALL』『ONE PIECE』『NARUTO』といったIPの商品・サービスを展開するバンダイナムコのブースも大盛況で、川口は目を細めていた。

満足げな表情を浮かべた理由はほかにもある。社長就任時に断行した組織再編の成果が見て取れたからだ。

「従来は、同じIPでもゲームとトイなど事業ごとにブースを出していました。IP軸戦略のもと、『ガンダム』なら『ガンダム』のブースとしてつくり、お客様からも非常に見やすいかたちになった。集約させたことでバンダイナムコとしてのトータルのアピールができた手ごたえがあります」

ゲームを扱うデジタル事業と玩具を扱うトイホビー事業を統合し、新たに立ち上げたエンターテインメントユニットは、グループ売り上げの約9割を稼ぐ。ほぼ一本足になると、ユニット体制の長所である安定性が失われる。しかし、川口は「あえてアンバランスなかたちにした」と明かす。「これまでは各事業が事業の成長を最優先にし、サイロ化が起きていました。中期の成長を考えると、横の連携をもっと密にする必要がある。そのために今はこのかたちがいい」

海外にもメスを入れた。従来は各地域に各事業がそれぞれ拠点を置いていたが、各地域に1拠点のワンオフィス化を推進した。

「今回のイベントも、ホールディングスが強硬に『まとまってやれ』と指示したわけではありません。IP軸戦略について、現地のみんなが意図を理解して動いてくれた。これは大きい」

バンダイナムコは、特定のIPや領域に惚れて入社した社員が少なくない。思い入れが強いと、良くも悪くも視野は深く狭くなりがちだ。一方、川口は一歩引いて全体を俯瞰する。ホールディングスのトップとしては当然と言えるが、そのスタンスは若手の頃からだったという。

「バンダイに入社したのは玩具が好きだったからです。ただ、周りは筋金入りの社員ばかり。玩具やアニメに対する桁違いの知識や熱量を目の当たりにし、自分のマニア度では太刀打ちできないと悟りました」
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文=村上 敬 写真=苅部太郎

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年11月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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