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2023.11.01 12:30

損失300億円を大逆転。バンダイナムコのIP軸戦略で恩返し経営へ

Forbes JAPAN編集部
では、自分の武器は何なのか。営業ばたけの川口は、数字にこだわることに自分を課した。結果を残すとチャンスがやってくる。アップルと共同開発した次世代マルチメディア機「ピピンアットマーク」の営業責任者に抜てきされたのだ。

1996年に発売されたピピンアットマークは、ゲームだけでなく、サブスク課金モデルのオンラインコミュニティも楽しめた。ただ、先進的過ぎて受け入れられず、50万台作って4万台強しか売れなかった。

雪辱を期して戻ったトイ事業で、再び失敗を経験する。人気ゲーム「たまごっち」で過剰な在庫を抱え、大きな損失を会社に与えてしまったのだ。

ふたつの失敗を経て河口のなかに芽生えたのは恩返しの気持ちだ。

「二度の合計損失額は300億円以上。それでも人に×をつけないのがわが社のいいところ。また次に挑戦する場をくれました。もう感謝しかない。残りの会社員人生は、負債を返すために生きようと決めました」

全体の数字を意識するようになったのはこのころだ。川口はカプセルトイ「ガシャポン」を扱うベンダー事業の責任者になったが、他事業と競合する商品カテゴリーの撤退を決断。会社として利益を最大化できればいいという判断だった。

会社を率いる立場になり、全体最適を考える姿はより鮮明になっている。今年10月にはガンダムメタバースをテストオープンさせる。最初はガンダムから始めるが、ガンプラ、ゲーム、アニメなどジャンルをこえてIPのファン同士が交流できる世界を目指す。例えば自作ガンプラをスキャンしてゲームの中で操れるようにする構想もあるという。

メタバースは収益化が難しく、すでに撤退した企業もある。しかし、川口は意に介さない。

「単体ですぐ収益化することは考えていません。メタバースで稼がなくてもIPの価値が育つことで全体として収益化のアイデアも出てくるはず」

社長就任から2年で売上は約2500億円、経常利益は約400億円増えた。すでに二度の失敗の負債を上回る貢献をしているが、メタバースでまいた種が花開くのはまだ先。川口の恩返しはこれからが本番だ。


かわぐち・まさる◎1960年、神奈川県生まれ。駒澤大学経済学部を卒業後、83年にバンダイ入社。2006年にバンダイ取締役を経て15年に同社代表取締役社長とバンダイナムコホールディングス執行役員へ。グループ各社要職を兼任し21年より現職。

文=村上 敬 写真=苅部太郎

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年11月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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