ユナイテッドアローズの構造改革を後押しした人づくりと創業者のメモ

松崎善則 代表取締役 社長執行役員CEO

「リーダーが孤独って本当ですか」

松崎善則は役員時代、当時社長を務めた竹田光広にこう質問したことがある。松崎は28歳で渋谷公園通り店店長になって以来、仲間に支えられてきた実感があった。孤独を感じたことのない自分はリーダーになる資格はないのではないか。そんな不安から発した質問だった。

「孤独だよ。社長になればわかる」

そう答えた竹田に、このときはそれ以上深く突っ込めなかったという。2021年4月、松崎は社長に就任した。21年3月期はコロナ禍の影響で赤字に転落。一部店舗を閉鎖する最中でのバトンタッチだ。孤独の意味はすぐにわかった。「損得で考えたら閉めるべきですが、地域にひとつしかない店舗を閉めたらお客様は困る。苦渋の決断で、最後は自分で決めないといけなかった。誰も相談相手がいなくて、なるほど、これがリーダーの孤独なんだなと」

孤独を背負って決断したかいはあった。構造改革の成果で、22年3月期(連結)は営業利益16億円、当期純利益7億円と黒字転換。さらに23年3月期の第3四半期決算(4〜12月)は前年同期比で増収増益となった。

構造改革したのは店舗だけではない。22年4月、事業本部制だった組織を機能本部制へと再編した。事業を超えて横串しを通すことで各機能の専門性を高め、同時に重複する業務の合理化を推進するためだ。組織再編にはさらにもうひとつ、別の狙いもある。人材確保だ。

「事業本部制は事業をまたいだ人材交流が少ない。そのためキャリアアップが見えづらく、退社するスタッフも目立ち始めました。それを変えるための再編です」

松崎自身、若いころはキャリアに悩んだ。洋服に関心をもち始めたのは小学生のころ。近所にTシャツとジーンズを着こなす中学生がいた。話を聞くと、「リーバイスだ」という。「自分のジーンズは適当に選んだもの。同じジーンズなのに、彼はリバー・フェニックスみたいだった。ちょっとした違いが大きな差になるとわかり、ファッションに興味をもち始めました」

学生時代は洋服店でアルバイトしたが、当時は販売で生計を立てるイメージがわかず、同じサービス業であるホテルに就職した。しかし、本当に好きなことを仕事にしたいという思いが消えず、3年で退社。ユナイテッドアローズの門をたたき、1年後にやっとアルバイトで入社した。「現在のユナイテッドアローズの経営理念には『真心』と『美意識』という言葉が入っています。接客から商品の並べ方まで随所に真心と美意識を感じて、一生働ける服屋もあると入社を決めました」

入社後は精力的に動いた。店舗のシフトは平日休み。本部は平日も稼働しているので、事業の全体像を理解したいという興味から、商品部の会議にも参加した。上司はそれを面白がって松崎を店長に抜擢。商品部に異動を希望していたが、裁量の任された店長職が楽しくなり、 そのまま販売畑でステップアップを続けた。
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文=村上 敬 写真=大中 啓

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年6月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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