森林の健全性が生む可能性。住友林業の「新たなマネタイズ法」とは

光吉敏郎|住友林業 代表取締役社長

光吉敏郎|住友林業 代表取締役社長

生物多様性の損失を食い止め、回復軌道に乗せる「ネイチャーポジティブ」への注目が経済界で高まっている。「Forbes JAPAN 2023年11月号」では、先進的なプレイヤーたちの取り組みを特集した。

生物多様性のど真ん中の領域で事業を営む住友林業。新潮流をどう受け止め、ビジネス創出につなげていくのか。


「自然資本をベースにした事業──私たちでいえば森林経営を通して生物多様性を守ったり、気候変動問題に貢献したりすることは、住友林業の長い歴史を通じて社員一人ひとりにDNAとして引き継がれています」

近年、生物多様性を損失から回復に転じさせる「ネイチャーポジティブ」が注目を集めている。22年にモントリオールで開催されたCOP15(生物多様性条約第15回締約国会議)でも取り上げられ、今年9月にはTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の第一版が公表。にわかに脚光を浴びた新潮流について尋ねると、住友林業社長の光吉敏郎は、時代の問題意識が追いついてきたという自負をにじませながらこう答えた。

確かに住友林業は常に森林とともにあった。住友家が現在の愛媛県新居浜市に別子銅山を開坑したのは1691年。銅山の開発には、薪を燃料にしたり坑道を支える杭木にしたりするため大量の木材が必要になる。その木材を供給する事業が同社のルーツだ。

ただ、当時はネイチャーポジティブではなかった。大量伐採に加え、銅山の製錬から発生する亜硫酸ガスが周囲の自然環境を破壊したのだ。

「自然の荒廃に危機感を覚えた後に2代目住友総理事となる伊庭貞剛が1894年に打ち出したのが、大造林計画でした。多いときには年間250万本の木を植えました。ネイチャーポジティブはおろかCSRやサステナビリティといった言葉もない時代に森林の回復を図った。それが私たちの原点になっています」
 
大造林計画から130年。同社のネイチャーポジティブは現在、経営戦略のひとつに位置づけられている。

「コロナ禍で私たちも現場や海外出張に行けなかった時期がありました。ただ、それが2030年に向けて住友林業はどうしていこうかと時間をかけて議論するチャンスになり、22年2月に発表した長期ビジョン『Mission TREEING 2030』につながりました。このなかで事業方針のひとつとして、『森と木の価値を最大限に活かした脱炭素化とサーキュラーバイオエコノミーの確立』をかかげました。脱炭素やネイチャーポジティブの実現に向けた取り組みを加速しています」

ネイチャーポジティブを実現するためのコンセプトが「ウッドサイクル」だ。これは森林経営から木材加工、流通、木造建築、バイオマス発電までの、木を軸にした同社のバリューチェーンを循環的に回していく考え方である。

「日本は森林の蓄積量が豊富です。ただ、さまざまな問題で林業の持続可能性が危ぶまれています。実はこの状態は地球環境にもよくない。スギは木齢が若いときにCO2を吸収し、一定期間を過ぎると吸収量が落ちるといわれています。カーボンニュートラルに貢献するには、CO2を吸収しにくくなった木を伐採し、住宅・非住宅の建材にして炭素を長期的に固定化したほうがいい。伐採した後に植林すればまたCO2の吸収ができ、建築廃材はバイオマス発電に使うことも可能です」

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文=村上 敬 写真=平岩 享

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