森林の健全性が生む可能性。住友林業の「新たなマネタイズ法」とは

Forbes JAPAN編集部
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世界最大級の森林ファンドを設立

森林資源を回復させる取り組みをマネタイズする方法はほかにもある。森林ファンドの活用だ。

森林に投資をして、生み出される木材販売の収益がリターンとなる森林ファンドは米国で約40年前から存在していた。しかし、近年はそこにカーボンクレジットを組み合わせたモデルが登場している。

住友林業の傘下で米国の森林アセットマネジメント会社イーストウッド・フォレスツを通じて今年6月に第一号ファンドを組成した。資産規模は約600億円で、森林ファンドとしては世界最大級。出資したのは日本郵政やENEOS、ユニ・チャームなど日本企業10社だ。

「森林ファンドにおけるカーボンクレジットは、森林を保全することで回避されたCO2排出量と、適切な管理で増加させたCO2吸収量で創出されます。私たちが北米で買おうとしているアパラチア山脈の森林は、広葉樹が多くて林業も盛んです。ただ、施業に改善の余地が大きい。例えば、すべて伐採するのではなく、マザーツリーを残したほうが回復は早い。私たちのノウハウを使えばもっと吸収量を増やして質の高いカーボンクレジットを創出できます。第一号ファンドは15年間で1500万tのクレジットを生む計画を立てています」

創出されたカーボンクレジットは、出資企業に分配される。出資企業は自社が排出するCO2とオフセットしてカーボンニュートラルに活用してもいいし、クレジットを必要としているほかの企業に市場や相対で販売して収益を狙ってもいい。クレジットを媒介させることで、森林に縁のないプレイヤーを引き込み、その資金を森林資源の回復や保全、拡大に活用できるわけだ。

理想はカーボンクレジットを介さずとも森林の価値が評価されることだろう。最後に光吉はネイチャーポジティブへの思いを語ってくれた。

「現在、TNFDの議論が進んでいるように、いずれは森林のもつ生物多様性保全や水源養成の価値が、何らかのかたちで評価される時代がやってきます。実際その価値があることは間違いないのだから、あとはそれをどう評価するか。森林に長く向き合ってきた会社として、そこにも貢献していけたらいいですね」


みつよし・としろう◎1985年、早稲田大学教育学部卒業後、住友林業入社。2011年常務執行役員 海外事業本部長、15年取締役常務執行役員、住友林業ホームテック社長、18年取締役専務執行役員 東北復興支援担当住宅・建築事業本部長など要職を歴任。20年4月に代表取締役社長に就任。

文=村上 敬 写真=平岩 享

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年11月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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