「ネイチャーポジティブの実現にはふたつのアプローチがあります。CO2を地中に埋める技術をはじめとしたテクノロジー・ベースド・ソリューションと、植林などのネイチャー・ベースド・ソリューション(NbS)です。住友林業はこれまでネイチャーベースのノウハウを磨いてきました。私たちには、自然から利益を得て発展してきたという恩があります。今はこれまで蓄えてきたノウハウを使って、恩返しするタイミングだと考えています」
泥炭地の管理技術に優位性
森林資源が豊富な日本においては、森林経営のサイクルを適切に回すことがネイチャーポジティブにつながっていく。一方、より強い関与が必要なのは、森林面積が減少の一途をたどる海外のほうだろう。世界の森林面積は1990年からの30年間で、日本の国土面積の約5倍にあたる1億7800万haが減少した。これをいかに食いとめて回復させるのかが、グローバルにおける課題のひとつだ。実は、住友林業は海外でも広大な森林資源を管理している。インドネシアの西カリマンタン島では政府から約17万haのコンセッション契約を結び、その約25%で植林事業を行っている。
政府から管理運営を任されたのは、かなり傷んだ劣化天然林だ。西カリマンタン島では60年代に商業伐採が始まり、経済性の高い樹種は切り尽くされた。90年に商業伐採権が切れたことで違法伐採や焼き畑農業が横行した。
「この地域には、絶滅が危惧されているオランウータンやテナガザルといった陸上生物に加えて、カワゴンドウなどの希少な水生生物が生息しています。ライセンスのある森林のうち7割以上は、こうした希少種を含めた生物多様性を守るために伐採せず保護しています」
難しいのは、このエリアが熱帯泥炭地であることだ。熱帯泥炭地は、樹木などの植物の遺骸が腐らずに堆積してできた土壌で、大部分は水分である。この土地は不適切な管理をすると地下水位が下がり、乾燥して非常に燃えやすいため、水位管理が重要だ。かつてはそれで何度も大規模な山火事が起き、人間も含めて多くの命が犠牲になっていた。
「この土地を運営管理するにあたって、5年の歳月をかけて地形計測やボーリング調査を実施。さらに現場で10年にわたって試行錯誤を重ね、年間を通し地下水位を安定させる管理技術を2016年に確立しました」
さらに技術を高めるため、今年2月にはIHIとの合弁会社「NeXT FOREST」を設立した。住友林業が蓄積してきた熱帯泥炭地のデータと、IHIのドローンや人工衛星による観測データを組み合わせて、熱帯泥炭地を管理するAIモデルを構築している。その先に見据えるのは他地域への展開だ。
「世界に大きな熱帯泥炭地は3つあります。ひとつはインドネシアで、ほかにペルーからアマゾンにかけた一帯と、アフリカのコンゴにあって、合計で8200万ha。西カリマンタン島で実践している管理技術をもとに、事業として他地域へのコンサルティングを展開していくことを目指しています」