創業75年、「脱炭素商社」として次のステージを進む豊田通商。2050年にカーボンニュートラルを実現するという大目標を掲げ、走り始めた。トヨタグループの強みを生かし、中期経営計画ではネクストモビリティやアフリカ事業など7つの重点分野を成長戦略に据える。自然資本ランキング3位に選出された新時代の経営とは。
──昨年、2期連続で過去最高益を大幅に更新した理由は。
貸谷伊知郎(以下、貸谷):世界市況の好調や、燃料高騰、円安などの恩恵もあったが、グループ全体の「稼ぐ力」が上がったことが大きかった。例えば、サプライヤーとの関係を強化してきたことで、コロナ禍においてもお客様のラインを止めずにすんだ。アフリカで自動車などの販売事業も着々と伸びている。欧州では再生可能エネルギーの収益性が増していることも理由のひとつだ。
グループ時価総額は20年前に比べ、約17倍と大きく成長した。次の新しいステージへ踏み出した今、「Be the Right ONE(唯一無二の存在)」というグローバルビジョンのもと、挑戦している。アフリカ事業をはじめ、再エネ、循環型静脈、水素・代替燃料など7つの重点分野はわが社らしさや強みを表す「タグ」だ。これらを束ねて「豊田通商ならではの個性」を発揮していきたい。
──自然資本経営にどう取り組むか。
貸谷:社会が豊かになるにつれ、どうしても環境への負荷は避けられない。「今さえ良ければ」ではなく、未来に喜ばれる事業を考えるべきだ。また、なるべく環境負荷を小さくできるよう工夫しなければならない。2021年のカーボンニュートラル宣言では「未来の子供たちに、よりよい地球環境を。」というスローガンを掲げた。30年までに温室効果ガス(GHG)排出量を19年に比べて半減し、50年までにネットゼロ達成を目指す。
社員が積極的に参加できるよう、マネジメントも見直している。昨年、ふたつの社内制度を導入した。ひとつは「社内カーボンプライシング制度」。これは事業活動におけるGHG排出量を数値化し、事業収益に計上するというもの。例えば、GHG排出量を減らすことができれば業績にプラス、増えればマイナスに評価される。ビジネスプランもGHG排出量を必ず見える化し、削減方法まで提案してもらう。
もうひとつが、「脱炭素設備投資助成制度」。本来、脱炭素にかかる設備導入費用はすべて営業部にとってマイナスとなる。だが、償却・金利コストを全社負担扱いとすれば投資は加速するだろう。30年までに1.6兆円を脱炭素に投じる計画だが、これは同年までに稼ぐであろう営業キャッシュフローの約半分を占める規模だ。