経営・戦略

2023.12.13 15:00

30年までに1.6兆円投資する豊田通商。目指す「未来に喜ばれる」経営とは

──昨年は、カーボンニュートラル・サーキュラーエコノミー(CN・CE)戦略の実行元年だった。

貸谷:当社は70年代からCEに注力してきた歴史がある。使用済み自動車(ELV)のリサイクルには50年以上取り組んできた。80年代には再生可能エネルギーも始めている。直近では、自動車由来のプラスティックや使用済みペットボトルの水平リサイクルにも取り組んでいる。

トヨタグループの一員として、環境問題の解決は悲願のひとつ。それぞれが点だった事業が有機的に結びつき、同じベクトルに向かって進んでいると感じる。今後も楽しみながら挑戦を続けていきたい。

「人のため」が、自分の幸福につながる

──重点分野にアフリカ事業を含めた理由は。

貸谷:アフリカはアクションひとつで社会が劇的に良くなる。インパクトが見えやすいところにやりがいを感じた。「誰かを幸せにすれば、自分も幸せになる」ことを実感できる。それをより意識し行動することで、「社会貢献」にもつながるだろう。

それからアフリカに強い仏商社CFAO社を買収した時も、ダイバーシティの重要性を痛感した。異文化がぶつかり合うことで化学反応が起き、新しい変化が生まれる。自然界で生物多様性が大切であるように、企業の成長にも多様性が必要だ。実際、海外の重要ポストの半分はローカルスタッフが占める。この割合はもっと増やしたい。

──社員との対話も実践している。

貸谷:20年前に比べて従業員数は7倍に増え、日本人以外のスタッフが7割を占めるようになった。若い世代も増えている。彼らに従来の考え方を押し付けても通じないだろう。多様な個人が起こす変化が世の中の大きな変化をつくっていく。

今年、尊敬する思想家ジャック・アタリとの対話会を開き、忌憚のない意見交換をする若手社員を見て頼もしく感じた。私も普段から社員と対話をするよう心がけている。パーパスを納得したうえで仕事をしてもらいたいからだ。わが社の中心をなす価値観は「利他の心」。社員にも事業を通じて社会に貢献しているという「利他の喜び」を味わってもらいたいと願う。


貸谷伊知郎◎1959年生まれ、京都府出身。83年、同志社大学経済学部卒業後、同年豊田通商入社。自動車、食料、アフリカなど5つの分野を経験した後、2011年執行役員。常務執行役員、専務執行役員などを経て18年取締役社長に就任。

豊田通商
◎トヨタグループの一員として、世界中で多角的なビジネスを展開する総合商社。23年3月期の連結決算売上高は9兆8485億円(前年比22.7%増)、純利益2841億円(同27.9%増)、従業員数は6万6944人。

文=吉見朋子 写真=吉澤健太

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年12月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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