2023年3月期決算で過去最高益を更新した日本郵船。ただ、バブル状態だったコロナ禍のコンテナ船需要はひと段落して、今期は減収減益予想である。祭りの後の難しいタイミングで経営のトップに就任したのが、代表取締役社長の曽我貴也だ。社員のモチベーションが落ちかねない時期に、人的資本をどのように活性化させていくのか。
──人的資本ランキングで2位にランクインした。
曽我貴也(以下、曽我):企業は経済活動で利益を出さなければいけない。それを社員や株主といったステークホルダーに還元するのはあたりまえのこと。それに加えて、人がワクワクしながら働いていることが、私が考えるいい会社の条件だ。
ワクワクして働くと生産性が上がる。私が入社したころはQCサークル活動(小集団改善活動)が、そしてある時期からはIT革命が生産性を引き上げていた。しかし、生産性を上げる手法やツールは今やほぼ完成されている。これからは社員一人ひとりが本当に楽しいと感じ、会社も社員にそう感じられる場を提供できるかどうかが生産性を分けるだろう。
23年度からの中期経営計画は「Sail Green, Drive Transformations 2026─A Passion for Planetary Wellbeing─」と名づけた。Planetary Wellbeingには、人々の暮らしだけでなく、私たちが働く場である海洋やそこに住む生物も含めて守りたいという思いを込めた。理想の未来に一人ひとりがパッションをもちながら働く会社になることが理想だ。
──いい会社にするために、どのような経営戦略を持っているのか。
曽我:新中計では、中核事業で稼いで強固な財務基盤を維持しながら、利益を新規事業の展開に使って会社全体の規模と質を追求する方針を打ち出した。
新規事業は自分たちがもつ知見や経験を生かすかたちで伸ばしたい。特に積極的に投資しているのがエネルギー転換をサポートする事業だ。これからは液化CO2やアンモニア、水素を貨物として運ぶ需要が増える。ただ、新エネルギーを運ぶのは容易ではない。例えば液化CO2は温度管理が難しい。また、アンモニアを運ぶ船をアンモニアで動かすことに取り組んでいるが、アンモニアは危険物であり、安全性の確保が大きなチャレンジになる。
宇宙産業にも挑戦中だ。波があっても甲板を水平に保つ技術を使って、回収型ロケットの打ち上げと回収をする。昨今は衛星の打ち上げの頻度が高まり、すでに打ち上げ基地は足りない。