曽我:個人が自分の個性や能力を高められる制度に変革していく。ただ、一人ひとりが自律して自分の成長を考えることが基本だ。社員が「これを学びたい」と思ったときに、会社としてそれを提供できる体制を整えたい。キーワードは「軸のあるジェネラリスト」だ。船会社ではひとりで何でもできるジェネラリストが求められてきたが、今後は専門性が求められる世界に入っていく。働くなかで自分の軸を見つけ、それを中心にほかの知識も身につけてほしい。
変革のリーダーを育成する「NYKデジタルアカデミー」からは、自律的に成長する人材が続々と生まれている。自ら社外パートナーを探して新規事業を提案する演習があり、宇宙関連の新規事業はこの研修で生まれたものがベースになっている。自分の発案が事業になるチャンスがある環境はワクワクにつながるだろう。
──中核事業の「深化」も求められる。既存の事業でワクワクするためには何が必要か。
曽我:適性を踏まえた配置が大切だ。人は「既存のものを壊す人」「更地に種をまく人」「出た芽を育てる人」「収穫する人」の4つのネイチャーに分かれるというのが私の持論だ。例えば「経理はルールに従う必要があるから苦手」という人も、既存のシステムを見直すプロジェクトでは光るかもしれない。まだアイデア段階だが、個性を自己申告してもらい、それをすくいあげて配置する仕組みができたらワクワクにつながるのではないか。
──曽我社長はどのタイプだったのか。
曽我:種まきが主で、収穫もやるタイプだ。30歳前後で、日本郵船として戦後初となる客船の立ち上げをやった。ノウハウが何も残っておらず、すべて自分で考える必要があった。就航直前で肺炎にかかり、式典はあいにく病院のベッドからテレビで見たが、自分の好きなようにやれたのは楽しかった。
──過去最高益から今期は減収減益予想で、ワクワクしにくい状況だ。
曽我:数字の問題はあるが、ここ2~3年で財務体質が改善したので、新たなことを仕掛けられるワクワクのほうが大きい。まさに種まきと水やりの時期だ。収穫するのは先になるが、そのときはうまく刈り取れる人に託せばいい。今は仕込みの時間を全力で楽しみたい。
日本郵船◎郵便汽船三菱会社と共同運輸会社の合併により1885年に創業。定期船事業、航空運送事業、物流事業からなるライナー&ロジスティクス事業や不定期専用船事業、不動産業などを手がける。
曽我貴也◎1959年、北海道生まれ。一橋大学商学部を卒業後、84年に日本郵船に入社。シンガポールや英ロンドンなどの駐在を経て、自動車物流グループ長、常務経営委員、専務執行役員などを歴任。2023年4月から現職。