経営・戦略

2023.12.10 14:00

SDGsバッジをつける必要がない。ヤマハ流「すべてがつながる好循環経営」

Forbes JAPAN編集部

中田卓也|ヤマハ Yamaha Corporation 代表執行役社長

ステークホルダー資本主義ランキング4位に輝いたのは、楽器最大手のヤマハ。音楽を通して世界中の人々のこころ豊かなくらしを目指す会社が大切にしてきたことは。

「冗談交じりによく言うんですが、我々はわざわざSDGsバッジをつける必要がない、と。本業や取り組みはすべてSDGsにつながっていますから」

ヤマハ社長の中田卓也は撮影時に、襟元を指さして笑う。そして、経営環境の変化に伴う、いい会社の定義の変化について問うと、次のように答えた。

「『いい会社』は本質的には変わっていません。ただ、誰にとっての『いい会社』か、における『誰』が増え、全ステークホルダーが満足する必要があると前提が変わりました。ヤマハにとっては追い風ですね」

同社は2022年6月、「ステークホルダーへの約束」を更新。従来の「顧客」「株主」「従業員」「地域・社会」を対象としたものに、「取引先」と「地球」を追加。さらに、記載する順番を、意思を込めて「顧客」「従業員」「取引先」「地域・社会」「地球」「株主」とした。

「株式会社なので営利を出すのは当たり前。それでも株主を最後にしたのは、ほかのステークホルダーを満足させることができれば、結果として収益が上がってくるから。反対に、どれかひとつでも欠けたら難しくなる」(中田)

その中田の経営哲学は、2013年から社長に就任して以降、4度目の中期経営計画(22年4月-25年3月)にも表れている。「成長力を高める」をテーマにし、経営計画方針に「事業基盤をより強くする」に加え、「サステナビリティを価値の源泉に」「ともに働く仲間の活力最大化」を掲げた。「事業をあえてひとつにまとめて、環境・社会課題解決、働く仲間を新たに加えました。会社として、ここを重要視するというメッセージです」

財務目標として売上成長率20%、事業利益率14%などを掲げるとともに、非財務目標として、「学期教育支援対象10カ国累計230万人」「持続可能性に配慮した木材使用率75%」「従業員の働きがいや働きやすさの向上」なども掲げている。

エコシステムの核は「従業員」

なかでも、中田が「際立っている」と言う取り組みが、新興国での学期教育支援「スクールプロジェクト」だ。設備や指導者不足などから楽器に触れる機会がない子供たちに対して楽器演奏の機会を提供している。23年3月末時点で、7カ国、累計202万人に行ってきた。

「とにかく子どもたちが笑顔。親も笑顔になる。音楽の力を再認識するこの活動は地域社会への貢献とともに、将来の顧客を増やすことにもつながる。投資家からも『企業としての持続性を担保する』と言われている。従業員も『うちの会社、いいことやるじゃん』と喜び、モチベーション向上や働きがいにつながるなど非常に価値のある好循環を生んでいます」
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文=池田正史 写真=吉澤健太

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年12月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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