「経営者のいちばん重要な仕事は、道を示すこと。VUCA言うてたらあかんのです。こうなるからこうするんやと示さなくてはいけない。その点、技術的なものの見方ができることは説得力につながるし、少しは経営の役に立っているでしょうね」
材料から製品までを一気通貫で手がけ、小型化や薄型化などエレクトロニクス業界のトレンドをけん引してきた村田製作所(以下、ムラタ)。非創業家初の社長として2020年から同社を率いるのが中島規巨だ。携帯電話の小型化を可能にした電子部品「スイッチプレクサ」の開発者であり、技術者と顧客の対話を通じて新たな製品を生み出すというムラタのコア事業モデルを築き上げた立役者でもある。
そんなムラタも、持続的な成長に向けた変革の時を迎えている。23年4~6月期の連結決算(国際会計基準)の売上高は前年同期比16%減の3676億円。純利益は同34%減の500億円だった。売上高海外比率が90%を超える同社だけに、世界的なスマートフォンの需要低迷が響く。
「数字に表れるのは有形の部分。我々がこれから強みにせなあかんのは、お客様との関係性や組織力などの無形の部分です。ここ数年さまざまな取り組みをしてきましたが、もっと変えていかないといけない」
そのひとつがサプライヤーとの共存共栄の関係構築だ。気候変動対策が待ったなしのなか、企業には製品の原材料調達から廃棄までの全工程において温室効果ガスの排出削減が求められている。そんななか、ムラタは上下の関係ではなく、一緒にサプライチェーンを支えていくというスタンスで温室効果ガスの削減に取り組んでいる。キーワードは「実証」だ。
例えば、ムラタは事業活動で使う電力の100%再エネ化を目指す国際的なイニシアティブ「RE100」に加盟し、国内工場の再エネ化を推進している。さらに、自社のセンシング技術とIoTを組み合わせたエネルギーマネジメントシステム(EMS)でエネルギー使用の最適化にも取り組む。
「初期費用はどれくらいか。どういうやり方をすれば費用を回収できるのか。いろんな事例をショーケース化することで、サプライヤー様の脱炭素対策のお手伝いができていると思います」
自社で行った実証試験で得た知見をサプライヤーと共有。納得し、導入してもらうことで、サプライヤーのためだけではなく地域社会や未来にも活かす。この発想は、ムラタの製品と同じプロセスから来ている。
「弊社は通信のモジュールも手がけていますが、これから増えるお客様は自動運転や医療ネットワーク分野の方々です。小さな部品をそのまま供給するだけでは使えへんのです。こうやったら使えますよと実証し、実感してもらうというアプローチが必要です。最終的に、売り上げがついてきたらええなと考えています」