話は2020年の新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)に至るまでの数年間から始まる。当時、中豪の貿易関係はかつてないほど緊密だった。これは自然な流れで構築されたものだ。オーストラリアは農業と鉱業が盛んで、かたや中国はオーストラリアが提供できるものを必要としていた。オーストラリア産の石炭と鉄鉱石は活況の中国の鉄鋼産業に、綿花は中国で急成長中の繊維産業に供給された。そしてワインは、中国で急増していた富裕層の食卓を飾った。
そうした輸出と引き換えに、オーストラリアは玩具からコンピューターに至るまで、中国で製造されたさまざまな物品を輸入。豪統計局によると、2020年にはオーストラリアの輸出のほぼ半分は中国向けだった。オーストラリア経済は中国の購買力に依存していると言っても過言ではなかった。
その関係が2020年に突然崩れた。当時の豪首相スコット・モリソンが新型コロナウイルスの発生源について国際的な調査の実施を求めたところ、中国の指導部が反発。モリソンの提案に腹を立てたのか、あるいは危機を感じたのか、中国はオーストラリアに圧力をかけることを決めた。中国が自国の経済と国民を統制する際の常とう手段である指揮統制方式に従い、100〜200%、あるいはそれ以上の厳しい関税をオーストラリア産の製品に課すことで、オーストラリアを窮地に追い込むよう命令が下った。豪企業は困難な状況に陥り、新たな市場を早急に見つける必要に迫られた。
農業、鉄鉱石、ワインどれをとっても回復は痛みを伴い、高くついた。豪ワインの業界団体オーストラリアン・グレープ・アンド・ワインのリー・マクリーン最高経営責任者(CEO)が言うには、新しい市場を開拓して関係を築くために、業界関係者は「靴底をすり減らしながら営業して回っていた」。