独りよがりではいけない
無形部分のもうひとつの取り組みが組織力の向上だ。「Innovator in Electronics」。ムラタグループ全社員のスローガンだ。社員一人ひとりが改革者になる。それには「全体最適を常に考える自律分散型組織」が欠かせないと中島は説く。
「ムラタは元々小さな部品だけを供給していた会社ですが、部品の定義が広がり、今では総合電子部品メーカーになった。スピード感を出さないと生き残っていけません。ウチの社員はある程度、自分で考えて実践することはできている。ただ、それだけではあかんと言っています。独りよがりではいけない。よその事業所や拠点でやっていることに興味をもたなあかんし、知ることを楽しんでもらいたい」
ムラタがジョブローテーション型の人材配置にこだわるのは、このためだ。ムラタの哲学を知り、ビジネスの全体像を把握し、自らのやるべきことを見いだす。個人でも、総合力でも勝つ。そのためには健全なかたちで意見を戦わせる風土づくりが必要だと言う。
「ムラタの社員は帰属意識が高く一体感が強い。みんなが同じベクトルを向いているので、何でもすんなり決まる。問題が発生したときには、これは強みになります。しかし、新しい事業を育てていこうというときには技術屋同士が侃々諤々、議論しなければいけない。今のムラタでは、こういう場になかなか遭遇しない」
画一的な一体感を健全なかたちで「破壊」するには、中途社員や国籍の異なる社員など、多様性のある組織づくりも重要だと中島は話す。
「いろんな経験や発想をもつ者同士が闊達に議論できる。これが、僕が思う『いい会社』です。まあ、『ムラタの社員はこういう行動を取らなあかん』と率先して言ってきた僕も戦犯のひとりですけどね」
ムラタの社是には「会社の発展と協力者の共栄をはかり これをよろこび感謝する人びととともに運営する」という一節がある。ステークホルダー資本主義の源流は、この社是にあったのだ。
中島規巨◎1961年、大阪府生まれ。同志社大学工学部を卒業後、村田製作所に入社。技術者としてフランス赴任などを経験したのち、モジュール商品部事業部長、取締役常務執行役員などを経て2020年から現職。趣味はゴルフや野菜づくり。
村田製作所◎1944年、村田昭が京都市で創業。材料から製品までの一貫生産体制を構築し、小型、高機能、薄型化などエレクトロニクス業界のトレンドをけん引している。連結従業員数7万3164人(2023年3月末時点)。