症例
その患者は30代の女性で、けいれん発作を起こして病院に搬送されてきた。入院中に発作が悪化して通常の抗けいれん薬が効かなくなり、筆者が研修医として勤務していた集中治療室に移された。神経科医は発作を止めるためペントバルビタールを静脈内投与して患者を昏睡状態にし、人工呼吸器を装着したが、症状は悪化の一途をたどり、発作は収まらなかった。そうこうするうち、排液バッグの中の尿がやけに黒っぽい色をしていることに気づいた。まず脱水症状を疑って水分を補給したが、尿の色は変わらなかった。尿を分析に出したところ、尿中ウロビリノーゲン濃度が異常値を示した。同僚の研修医からウロビリノーゲン値が高いことを知らされたとき、筆者の脳裏にピンと来るものがあった。吸血鬼の話や、ポルフィリン症では過剰な量のヘム前駆体が尿中に排出され、ウロビリノーゲン検査で交差反応を示すことを思い出したのだ。
「この患者はポルフィリン症ではないでしょうか」。筆者の意見を受けて、ただちにポルフィリン症の追加検査が行われた。結果は陽性だった。ペントバルビタールはポルフィリン症の患者に対して有害な副作用があり、急性症状を誘発する恐れがあることもわかった。別の抗けいれん薬に切り替えた末、ついに発作を抑制して人工呼吸器を外すことができた。診断が患者の命を救った。
症例からの教訓
けいれん性の発作はポルフィリン症の合併症として知られているが、私たちが最初に何かがおかしいと疑ったきっかけは、患者の尿の色が極端に濃いことだった。尿の色が濃くなる病気は他にもあるが、ポルフィリン症では尿を光に当てると黒くなるという特徴がある。ポルフィリン症の診断により、すべてに説明がついた。この話からは、いくつかの重要な教訓が得られる。1つは、記憶に残って消えないイメージを作り出す物語の力である。ドルフィン博士のように、創造的なアプローチを用いて指導する教授陣には脱帽するほかない。もし吸血鬼とポルフィリン症の話を聞いたことがなかったら、あの診断へと筆者を導いたポルフィリン症の特徴を覚えていられたかは疑問だ。
もう1つの重要な教訓は、医師は患者をよく観察するよう訓練されているが、病気の診断を下す根拠となるのは自分の知見や経験だということだ。患者の病歴や身体所見と、臨床検査やその他の検査を総合的に判断することで、診断を導き出せるのだ。こうしたスキルを患者やその家族との効果的なコミュニケーションにつなぐのが、結局のところ医療の技なのである。
(forbes.com 原文)