国際的に広がるナイトタイムエコノミーの推進
ナイトタイムエコノミーは、夜間交通や安心安全面等の公共インフラや法規制の整備、シティプロモーション、そして営利事業として成立しにくいマイノリティの活動スペースの確保なども重要なテーマであることから、民間事業だけではなく、都市単位で実践していく必要がある。ビジョンを掲げて戦略を立案し、実行のための推進体制を官民のマルチステークホルダーで作っていく手法をとっているのは、なにもロンドンだけではない。アムステルダムの夜の市長制度を筆頭に、欧米の先進都市では当然のこととして実施されている。
例えば、ニューヨークでは、2018年にデブラシオ市長(当時)が市役所内にナイトライフ局を設置し、初代ディレクターとしてナイトライフに精通する民間人材を登用するとともに、14名の専門家からなる諮問機関を設けた。
シドニーを含むニューサウスウェールズ州でも、2021年に24時間経済コミッションを設立し、民間人を初代コミッショナーに任命するとともに、専門部局を設置している。
これらの契機となったのは、ニューヨーク市は2017年のキャバレー法(飲食店でのダンスを規制)の廃止、ニューサウスウェールズ州は2021年のロックアウト法(深夜のアルコール提供を規制)の廃止であった。
東京、日本の都市はどうか?
2016年の風営法(ダンスを風俗営業として規制し、深夜12時以降の飲食店での遊興を禁止)の改正を機に、ナイトタイムエコノミーの議論が盛り上がり始めた。ニューヨークやシドニーに先行して議論がスタートしていたにもかかわらず、未だ都市レベルでの推進体制の構築や戦略的な展開に発展しているとは言い難いのが現状だ。
日本の真の課題とは──
夜間の観光コンテンツや観光消費額の観点から、日本のナイトタイムエコノミーは遅れていると言われることがある。推進していくうえでも、何か目新しい観光コンテンツを造成するというイメージが先行しがちだ。しかしながら、そもそも「観光、特にインバウンドの推進」がナイトタイムエコノミーの目的だったであろうか?
ナイトタイムエコノミー議論のきっかけとなった「風営法改正」の背景には、夜を舞台に表現活動を行うミュージシャンやアーティスト、思い思いに夜を楽しむ市民、夜に生活の糧を得るワーカー、そして文化的で人間中心の街をつくろうとする街づくりプレーヤーといった様々な人たちの想いと行動があった。困難な法改正の先にどのような夜を思い描いていたのか。
日本の各地域の夜には素晴らしい才能が溢れ、夜ならではの暮らしや文化が豊かにある。それらの魅力をさらに磨き上げ、都市全体の魅力に昇華させていくために、先ずは日本の各都市が様々な関係者とともに、夜を通じて目指すべき方向性やビジョンを明確にする必要があると強く感じる。
そのうえでビジョンを実現していくための戦略と推進体制を整備することも不可欠であろう。
自治体や国がナイトタイム振興予算を設け、夜間のイベント開催や観光コンテンツ造成を支援している例は多くある。しかしながら、それらがどのような目的で実施され、どのように地域の課題解決にコミットしているか、あるいは単発イベントに終わらず事業としての継続性を持っているか、官民の役割分担が適正になされたものか、といった観点で戦略的に実施されることが重要だ。
コロナ禍を経た今、こうしたナイトタイムエコノミーのビジョンと戦略、推進体制がないことが、日本が抱える真の課題ではないだろうか。