「夜間戦略」はなぜ重要なのか
以上がロンドンがとるナイトタイムエコノミーの推進手法の概要であるが、もちろん日本の各都市とロンドンとでは目指すべきビジョンや克服すべき地域課題も異なり、ただロンドンの真似だけをしても機能しないであろう。しかしながら、日本ならではの夜の価値を見出し、実現していくための手法として、参考にすべき点は大いにあると感じる。「Developing a Night Time Strategy」では、戦略の重要性をこれでもかと強調している。理由は以下のようなものだ。
●地方自治体を受け身の反応型から能動的な積極型に転換し(自治体の積極関与)、経済成長だけではなく、コミュニティやウェルビーイング、持続可能性等の要素をバランス良く保つ(計画の全体性)
●すべきことの優先順位を付け、資金や人的リソースの活用を効果的にする(リソースの有効活用)
●官民や部署間の縦割りを除去し、人員の異動があっても活動を継続的なものとする(一貫性と継続性)
●様々なステークホルダーの関心を集めて協力を促し(アドボカシーツール)、推進主体の責任分担を明確にしてチームとしての実行力を高める(責任分担)。さらには活動に対する効果検証を可能として改善を促す(モニタリングツール)
誰のためのナイトタイムエコノミーか
このようなナイトタイム戦略が、常に様々なロンドン市民の意向を集約しながら策定されているのも特筆すべきポイントであろう。ロンドン市長は民間人から夜の市長を任命し、「A Vision for London as a 24-Hour City」は多様な関係者からの意見を集めるオープン・プロセスを経て策定され、「Think Night」は民間のステークホルダー等により構成されるナイトタイム委員会によって取りまとめられた。
「Developing a Night Time Strategy」では、行政部局内への専門部署の設置に加え、同専門部署が民間と協力体制を作るべく、ビジネスプレーヤーやエリアマネジメント組織、ナイトワーカー、地域コミュニティによる会議体「ナイトフォーラム」の設立を求めている。
誰のためのナイトタイムエコノミーであるべきか。
夜の市長エイミー・ラメ氏は「Developing a Night Time Strategy」の冒頭で、「私は、ロンドンがこれまで直面した中で最も困難な時期にこの文章を書いています。 COVID-19のパンデミックは、夜間のロンドナーの経済、社会、文化生活に前例のない制限をもたらしました」と述べた。
日本ではインバウンド観光の観点からナイトタイムエコノミーが注目されることが多いが、「地域コミュニティ」にとって夜がいかに重要か、ということが強調されている。
そして、消費を生み出す事業者や文化の担い手としてのアーティストだけではなく、都市インフラを支えるナイトワーカーなども重要なステークホルダーとして位置付けている点も、印象深い。
「18時から6時までのロンドンのコミュニティのための総合的な計画は、都市の経済的、社会的、文化的な活気のために極めて重要だ。もし私たちが夜の活気を守り育てなければ、社交的で好奇心旺盛、創造的で才能のある人々が私たちの都市に引き寄せられ、ロンドンを故郷として誇りに思う理由を危険にさらすことになる。
夜の豊かで持続可能な計画は、様々な人々のためのものだ。性別、社会経済的状況、年齢、民族、障がいの有無など、夜の活動に参加する人々の多様性の確保は夜の戦略の成功の鍵となる指標だ。
地方当局は、夜の戦略の策定や実施に関して、様々なステークホルダーやパートナーと連携する必要がある。夜の産業は、天文学者、看護師、物流スタッフ、ミュージシャン、劇場の運営者、クラブのプロモーターなど才能に溢れた人々の活躍の場だ」