例えヒットの方程式に当てはめて制作したとしても、そこにクリエイター自身の思いが乗っていなければ、誰も心惹かれない。社内ではよく「心を打つエンタメはあっても頭を打つエンタメはないから、頭で考え過ぎないように」と言っています。
林士平(以下、林):お金をかけたことによる完成度やクオリティの高さではなく、個人の“あく”みたいなものの面白さに世の中の人は反応するのかなと思っています。ディズニーやピクサーのアニメのように多人数で作るエンタメと、僕たちが届けている“個の濃さ”で勝負するエンタメは別物で、それぞれ長所がありますが、近年はますます個人で作ったものが広がっていますよね。
SNSで「消費」されないために
渡辺: SNSの中でも拡散力が高いX(旧Twitter)では、視聴者との接触時間は数秒、なんなら1秒以下のこともあります。SNSでのファン作りには、ショートアニメや数コマの漫画など、ひと目でわかるキャラクター性があることが重要なんですよね。音楽でもそうした戦略はあるんですか?千木良:メディアでは、1番のサビ頭からが切り取られるのが通例で、受動的に聞いている人が多く耳にするのはサビ頭。Adoの「うっせぇ うっせぇ うっせぇわ」もそうですし、印象に残る曲は1番のサビに印象的なメロディーやワードが入っている事が多いですね。
最近はTikTokなどのショート動画でバズることも多くなりました。ただ、我々はTikTokとInstagramには基本的に後ろ向きです。誰が歌っているのかわからないまま切り取られた曲が広まっていくのは、ただの消費になってしまう可能性があるので極力避けています。
TikTokでバズるのは曲の1部であってアーティスト自身では無いため、アーティストの価値を上げる段階である時に、ただ消費されてしまうスピードの方が上まってしまうので。