「ラグジュアリー」の変化、不可逆なファッション
参加したトークセッションの一つが「What’s Next For Streetwear(ストリートウェアの次)」。新進気鋭のストリートファッションデザイナー ニック・ホリデー(Nick Holiday、HOLIDAY®︎創業者)、ソニア・ソンブリュイユ(Sonya Sombreuil, Come Tees創業者)、モデルのルカ・サバット(Luka Sabbat)がストリートとハイブランドの関係性、これからのファッションについてディスカッションするものだ。昨今、ディオール、ルイヴィトン、バレンシアガ等のハイブランドがストリートファッションを扱っていることについてどう思うか?という質問に対して「同じ工場で作られているTシャツがハイブランドのストリートラインでは600ドル、ストリートブランドでは80ドルで売られている。全ての人にアクセシブルなのがストリートファッションなのに、限られた人にしか手が届かないものをストリートファッションと呼んでいいのか?」と、現在のハイブランドのストリートファッション化への問題提起や、「ハイブランドがラグジュアリーである理由は、熟練の職人による手作業だったり、希少性の高い伝統を生かした服作りを行えるからであり、ただ、ロゴをプリントしただけのTシャツを売ることはラグジュアリーではないだろう」という辛口な意見も出ていた。
特に、ルカ・サバットが鋭い指摘を繰り返していたのだが、彼は「ロンドンのサヴィル・ロウ(名門高級紳士服店が集中しているエリア)の服よりも、モロッコのシルク職人が作ったスーツに魅力を感じる。また、ワインやミルクのシミがついている祖母の服に愛着を感じる」と続ける。ストーリー性を持ったもの、職人が丁寧に作ったものがラグジュアリーではないか?というのだ。
また、カニエ・ウェスト、Supremeなどとのコラボを行うソニア・ソンブリュイユはファッションデザイナーとしての今後の展望として「エントロピーを感じる服を作りたい。そして、極力服作りの数量は減らしていきたい。」とも語る。服作りにおいて不可逆性を感じさせたい、というのが面白い。80'sファッション、90'sファッションなどのリバイバルに甘んじてしまっているファッショントレンドへのカウンター的な言葉として受け取れる。ニック・ホリデーは昨今のファッションシーンはシリアスすぎるのでユーモアや皮肉を含めていきたいと語る。「今までに存在しない変なもの Weird things never existing を作っていきたい」と、ソニア同様不可逆性を感じさせることを意識している。
私たちは確実にファストファッション、ブランドネームで着飾るだけの時代からファッションにも思想やストーリーを求める時代に突入している。