「人の心を読み取る」AIは、何をもたらすか? 心理学的視点から解説

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科学誌『ネイチャーニューロサイエンス』に今年発表された画期的な論文の内容は、まるでSF映画の世界そのものだ。米テキサス大学オースティン校の研究チームが、脳波を読み取ることで頭の中の思考を言葉に変換できる外科手術不要の「言語デコーダー」の開発に成功した。人と人工知能(AI)の関わり方をめぐる分野で最も重要な進歩のひとつと位置づけられている研究成果だが、極めて重大な問題も提起している。今までの常識を覆すこの機能を使って、人類は何を為そうとしているのか。

いくつか考えられるものを挙げよう。

1. この技術によって、言語障害やまひのある人が思考のみを介して意思疎通できるようになる可能性が高い。
2. この技術は犯罪捜査に役立つかもしれない。
3. この技術が成熟し、ソーシャルメディア企業(または政府)の手に渡れば、個人的な思考が「盗聴」されてプライバシーが事実上過去のものになりかねない。

1番目と2番目の可能性にはメリットしかないように思えるが、恐ろしいのはその次だ。3番目の可能性に関して、事はすでに動き出している。

巨大ソーシャルメディア複合企業の米メタは最近、脳の活動、特に視覚認識情報を解読する技術の開発において進展があったと強調する論文を発表した。この研究では、従来の脳情報デコーディングで用いられる機能的MRI(fMRI)よりも時間分解能がはるかに高い脳磁図(MEG)を計測することで、人間の脳の視覚処理情報をリアルタイムで解読する技術に著しい飛躍がみられたとしている。平たく言えば、人が何を見ているかを、脳の活動のみに基づき正確に画像化できるようになったのだ。

この科学的躍進は、高次視覚機能のさらなる解明につながるだけでなく、人間の目を通してリアルタイムで「物を見る」ことのできる非常に高度なAIシステムの実現に道を開くものでもある。

これは私たちの生活にどのような影響を与えるのか。2つの可能性を紹介しよう。
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翻訳・編集=荻原藤緒

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