ライブコマースでフローラシスは成長
中国コスメは、ここ数年、日本の若い女性の間でもひそかに人気が高まっているという。先日もある女性誌で「透明感のあるセミマットな肌に、彩度を抑えたポイントメイクを合わせる“白湯メイク”」が「中国発、2023年のメイクトレンド」(「anan」2023年11月15日号)のひとつとして紹介されていた。筆者のような美容とは縁のない男性がこんな柄にもない話をしているのは、この秋、フローラシスの日本展開を進める夏さんや来日した同社共同創業者でマーケティング統括の飛慢(任剛睿)さんと知り合ったからである。
そして、彼らの発想や取り組みに興味深いものを感じたからだ。
最初のきっかけは、9月上旬に都内で開催されたフローラシスの記者会見だ。同社は8月31日から10月末までの2カ月間、伊勢丹新宿本店1階で製品を体験できるポップアップストアを開いており、その発表会だった。
フローラシスは、アリババグループが運営する中国最大のECモールであるTmall(天猫)や中国版TikTokの抖⾳(Douyin)など主要ECサイトで売上上位のトップブランドだ。
ロンドンに拠点を置くマーケティングリサーチ会社のユーロモニター・インターナショナルの調査によると、2022年の中国コスメ市場のシェア1位はフローラシス。ロレアル(欧菜雅)やイブサンローラン、ディオール(迪奥)などの外資系企業を抑えており、日系のものはもはやTOP10には入っていないという。かつてハイエンド市場は欧米系や日系、ローエンド市場は安価な中国系などと言われていたが、その構図は一変していることがわかる。
背景には、中国製品の品質向上もあるが、若い世代の間で中国ブランドのアパレルやコスメなどが浸透し、国産志向が強まっていることもある。
だが、フローラシスの急成長に最もインパクトを与えたのは、中国の巨大な電子商取引市場を牽引しているライブ配信と販売活動を融合させた「ライブコマース」だろう。
筆者はコロナ禍前の2019年1月に書いた「春節インバウンド対策は『ライブコマース』から学べ」 というコラムのなかで、来日した中国人KOLをレポートしたことがある。
2010年代半ば頃から始まった中国のライブコマースの2022年の市場規模は約69兆円(中国のオンラインビジネス専門の市場調査会社「iResearch(艾瑞諮詢)」より)とされ、5年間で約30倍に拡大したという。2017年に創業したフローラシスは、まさにこの時期、ライブコマースとともに急成長したのである。
もっとも、中国で勢いを得たオンライン販売とインフルエンサーに特化した販促は、必ずしも日本市場でも有効とは限らない。日本にはさまざまな宣伝広告手法や販売チャンネルがあり、異国の消費者を相手にターゲット層を定めたマーケティングを行うなど、中国国内では経験したことがないであろうプロモーションが求められるからだ。
いま夏さんが日本で注力しているのは、オフラインでの販路開拓である。それが今年 2 ⽉の東京・原宿「@cosme TOKYO」や伊勢丹新宿本店でのポップアップストアの開店だった。美容専門学校で公開メイク授業を仕掛けたのは、先入観を持たない若い世代への種まきであり、将来を見据えた地道なプロモーションといえるだろう。
フローラシスは「100年企業」を目指しているという。「残りは94年」とPR資料に書かれており、こういう発想は彼ららしいと思う。前述の飛慢さんが話してくれた同社のブランドストーリーは、中国の歴史や古典文化と紐づけられたもので、驚くほどコンセプチュアルな内容だった。彼らはこれまでの中国人企業家像とは異なる人たちだ。
ちなみに資生堂の創業は1872年9月17日。そんな150年超え企業のある日本で、もし彼らの取り組みが実を結び、美容界に新しいトレンドをもたらすことができたとしたら、面白い話ではないだろうか。
連載:東京ディープチャイナ
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