「もし、ウェルビーイングを目指して生きる、と言われたら違和感を感じませんか。ウェルビーイングは究極のゴールではないですし、未来のウェルビーイングのために何かを犠牲にしなければならないものでもありません。
では、ウェルビーイングを目指すのではなく、『ウェルビーイングに生きる』といったときに、何を手掛かりにするのか。そのときに『ゆらぎ・ゆだね・ゆとり』というガイドがあると、行動指針を失わずに進むことができると思います」(渡邊)
「ウェルビーイングと聞くと難解なイメージを抱かれるかもしれませんが、そんなことはありません。それは、わたしたちがこの世界で可能な限りよく生きるための小さな知恵から始まり、メンタルヘルスや幸福について話し合うためのきっかけとなる言葉なのかなと。
『ゆ理論』は、デザインやものづくりに従事する人だけではなく、あらゆる人たちが日々の生活のなかで工夫をして、小さく実験するためのガイドとして考えました。ビジネスの現場に“ケアの視点”を取り入れるのにも活用できると思います」(チェン)
渡邊淳司◎日本電信電話株式会社(NTT)上席特別研究員。人間の触覚のメカニズム、コミュニケーションに関する研究や、ウェルビーイングな社会を実現する方法論について探究。主著に『情報を生み出す触覚の知性』(化学同人、毎日出版文化賞〈自然科学部門〉受賞)、共著に『見えないスポーツ図鑑』(晶文社)など多数。2024年1月開催予定の展示会「WELL-BEING TECHNOLOGY」の企画委員長を務める。「意識研究会」に参画。
ドミニク・チェン◎早稲田大学文学学術院 教授。ウェルビーイング、発酵、生命性をキーワードに、メディアテクノロジーと人間の関係性を研究。主著に『未来をつくる言葉―わかりあえなさをつなぐために』(新潮社)、監修・翻訳書にサンダー・キャッツ著『メタファーとしての発酵』(オライリー・ジャパン)など多数。