「人的資本経営を推進していく上でも、CLOの設置はプラスに働くでしょう。例えば投資家とのコミュニケーションについては、CLOを設置することで企業としてリスキリングを全社的に進めている姿勢をアピールできます。海外の先進国と同じように、日本企業でも当たり前のようにCLOが設置される時代が来るはずです」(後藤氏)
未経験でも給与付きで育成。「アプレンティスシップ制度」の狙い
前回、後藤氏が指摘した通り、多くの日本企業ではリスキリングのためにせっかく社員が学んでも、実践の場が不足し、離職の原因になっている。しかし海外の企業ではポテンシャルがある人材ならば、未経験者でも給与を払って学びと実践の場を提供し、自社の社員として確保しようとする動きが広まっている。それが「アプレンティスシップ(徒弟)制度」だ。アプレンティスとは、英語で弟子や見習いのこと。同制度では、未経験者が企業から給与をもらいながら、職場で実践的な研修や教育を受けられる。期間中の給与は低めに設定されるが、修了後に企業側、参加者側の双方が望めば、正社員に登用される。
「海外ではGoogleやマイクロソフト、LinkedIn、アクセンチュアなど、名だたる企業が同制度を取り入れ、幅広い年齢層にリスキリングを行い、積極的に社員として採用しています。アメリカやヨーロッパでは最近、アプレンティスシップ制度の運営サービスを提供する専門のスタートアップも出てきています」(後藤氏)
「グリーンリスキリング」が加熱する理由
世界中で活発化する、脱炭素に向けた「グリーントランスフォーメーション」の動き。そのために必要になるのが、グリーンリスキリングだ。オーストラリアのキャンベラ市では、2024年までにディーゼルエンジンや天然ガスなどを利用した市バス450台を、EVに入れ替えることを決定した。そのままでは整備士の雇用が失われるため、市と製造労働組合、交通会社の3社が共同でEV分野へのグリーンリスキリングを実施。整備士たちは6ヶ月間、職業教育訓練専門学校で学んでいる。
また、自動車部品サプライヤー大手のボッシュも雇用を守るため、2016年から10年間で2800億円を投資し、世界で40万人をEV部品開発者などへとグリーンリスキリングすることを目標に掲げている。同社ではアプレンティスシップ制度を導入し、社員が週3日は研修を受講、1日は学んだ技術や知見を新しい勤務先で実践。そして残り1日は現在の勤務先で働く体制を構築している。
そうした守りのグリーンリスキリングに加え、攻めのグリーンリスキリングも行われている。2050年までにCO2排出量ゼロを宣言しているエールフランスでは、早くからカーボンオフセットプログラムを導入。個人旅客向けには、「Trip and Tree」という森林再生プラグラムへの寄付やSAF(持続可能な航空燃料)の購入によって、飛行機利用で排出したCO2をカーボンオフセットできるプログラムを運用している。同エアラインのサイトでチケットを購入すると、数種類の有料オプションが価格とともに画面に表示される。