働き方

2023.10.24 12:30

未来からのバックキャストで発信する宇宙天気予報士──北野唯我「未来の職業道」ファイル

斉田季実治

未来からのバックキャストで発信する

斉田:先日お話を伺ったispaceでは、2040年代には月面に1000人が住めるようにして、年間1万人が地球と月を行き来する世界をつくろうとしています。そうした場面では宇宙天気の影響を受けやすいです。次のピークは月面都市の準備が大詰めの2036年。おそらく2025年の段階でいろんな企業がデータを取っておかないと間に合いません。しかしインフラへのリスクについて、企業側は積極的に検討したがらないのです。
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北野:僕はITに関するセキュリティを「現代の税金」と呼びますが、それは払いたくないけど、払わないといけないもの。経営からすると、宇宙天気も現代の税金的な要素になると思いました。

斉田:会社としてどこまでリスクを考えるか。宇宙天気がリスクとして評価されないので、スターリンクの人工衛星も落ちてしまった。リスクの解釈をどうするかという意味では、保険会社が興味をもっています。宇宙に行くことだけでなく、カーナビのように身近なものへの影響もありますから。

北野:きっと自動運転にも関係してくる。toBへのコンサルティングが必要そうですね。
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斉田:今回のピークは前倒しになる予測もあり、あと1、2年で大きな影響が起きるかもしれない。でも、日本の災害対策は何かが起きてから予算がつくことが多いです。台風も噴火もそうですよね。

北野:あらためて、宇宙天気予報士という職業の魅力とは。

斉田:予報とは、未来を考えること。これからの社会では、そうした未来への視点が大事だと思うんです。例えば、地球温暖化対策は「2030年とか2050年に気温をこれくらいに抑えるためにCO2の排出量をこれくらいにする」という取り組みです。宇宙天気も同じように考えなくてはいけません。「こういうふうに社会が進もうとしている。じゃあ、もっと早い段階からこういうことをやっておかないと実現しないよね」という声は、なかなか社会に浸透しにくい。そこを考えて、伝えていく仕事です。

北野:いわゆる職業病のようなものはありますか?

斉田:いつも未来のことばかり考えているんです。朝起きたら、昨日予測したイメージの通りか、ベランダに出て空を見上げます。どんどん情報が新しくなるので、学び続けないといけない職業です。やっぱり好きかどうかが大事。私も、別に誰かにやれと言われて朝起きて空を見上げるわけじゃないですから。自分が好きだし、気になるから検証する。そういう人のほうが向いていると思いますよ。

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文=神吉弘邦 写真=桑嶋 維 文=北野唯我 (4ページ目コラム)

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