働き方

2023.10.24 12:30

未来からのバックキャストで発信する宇宙天気予報士──北野唯我「未来の職業道」ファイル

北野:キャリアは報道記者からのスタートですね。

斉田:私は医学部に行きたくて、大学へ入るまでに2浪しました。でも受からなくて北海道大学の水産学部へ進み、気象予報士の資格を取ってテレビ局に就職しています。気象の知識を生かし、台風の取材では雨風が最も強い場所からリポートしました。

その間、医療裁判のドキュメンタリーを撮ったりしたことで、専門的な知識をもとにメディアに携わる仕事がしたいという思いが強くなったんです。再度、医学部を受験してそんな道を目指そうと考え、いったん仕事を辞めました。でも、結局は今回も受からず、1年半後には貯金も尽きたので再就職しました。

北野:気象キャスターとして東京に出て、1年目に東日本大震災が起きたそうですね。

斉田:あの日は仙台などで夜に雪が降りそうでした。通常は「今夜は暖かくしてお休みください」と言ったりしますが、そんな状況にない人が多くいる。この先の予報を細かく伝えることに専念しました。これが正解と言えるものはないので「この状況だったら何を伝えればいいのか」を考えるきっかけになりました。

北野:いまもその経験は生きていますか。

斉田:2016年の熊本地震では「ニュースウオッチ9」の放送中に地震が起きたんです。私の天気予報のコーナーは飛びましたが、熊本が地元なので「この場所はベッドタウンで空港があって......」という解説を裏方の仕事としてずっとやりました。熊本地震では大きな地震が 2回起きました。みんな家から出て、外で夜を過ごしていたんですね。地元の人たちにグループLINEで天気の情報を教えていたとき、日の出の時刻を伝えたんです。する「ちょっと安心した」と。いつ明るくなるのかという情報も、不安を解消するためには大事。震災のときいろいろ考えていたことが生きたと思います。

北野:いまの仕事でやりがいを感じる瞬間は。

斉田:もともと報道記者なので、私は防災寄りの気象予報士なのですが、やはり災害で被害が少ないと「良かったな、伝わっているんだな」と思います。

北野:宇宙天気の研究者はいても、それをビジネスや生活の情報に変換できる人がいない。「インタープリター」が必要だという発言を以前にされました。

斉田:実際のインフラ被害を軽減するために「こういうことをやっていきましょう」と進める人が必要です。それぞれの専門知識をもったうえで、宇宙天気のことを知ってもらう。電力会社なら電力会社、衛星事業なら衛星事業にかかわっている人が宇宙天気の知識をもってもらうイメージです。

一方で、私は「気象キャスターネットワーク」という全国の気象キャスターが250人ほど入っている組織の理事もしています。そこでも宇宙天気のプロジェクトを立ち上げたら50人以上集まりました。気象キャスターが宇宙天気に詳しくなってメディアで発信すれば、世間の認知度が高まると考えています。

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文=神吉弘邦 写真=桑嶋 維 文=北野唯我 (4ページ目コラム)

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年10月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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