COLUMN インタビューを終えて
PDCAサイクルを回して「未来」を扱う仕事
「宇宙天気予報士」という職業を、あなたは知っていただろうか? どうやら、宇宙にも天気があるらしい。その変化は地球の天気と同じように、私たちの生活にも大きな影響を与える──例えば、太陽フレアの影響で通信網やGPSの乱れなどが実際に起こりえる。宇宙天気による影響は11年周期でピークがあるといわれ、次は2025年。もしかすると大災害が起きる可能性があるそうだ。なぜ、斉田季実治さんが予報士という「道」を選ぶに至ったか? 背景には自然災害の現場を報道記者として見たことがある。2003年に起きた台風第10号や十勝沖地震などを取材。天気の予報が人々の生死にもかかわることを、身をもって体験したのだ。そこから彼の「道」は始まった。
そして、たどり着いた宇宙天気予報士。この職業は3つの観点からとても興味深い。まずは「文明進化型の職業」であること。言い換えると、宇宙技術や宇宙ビジネスが進化したからこそ必要性が高まり、生まれた仕事だ。宇宙ビジネスの近年でのイノベーションのひとつは、小型衛星の量産化である。そして、小さな衛星は大型の衛星よりも、宇宙天気の影響を受けやすい。最悪、墜落する可能性がある。つまり、文明が進化したことで生まれた職業なのだ。
2つ目は「国家アジェンダに紐づく」ことだろう。2020年に国連防災機関が宇宙天気は災害のひとつであると初めて定義したが、各国の国防政策に大きな影響を与えるだろう。日本でも、総務省が宇宙天気予報高度化に向けた検討会を22年に開始している。
最後は「未来予測」を仕事にする点である。そもそも、天気予報は未来の予測に価値がある。「1週間前の天気は曇りでした」という過去の情報は、ビジネス的にほとんど価値がないだろう。同様に、宇宙天気の予報も膨大な過去のデータを参考にしつつも価値があるのは、あくまで未来の情報である。
通常の仕事は、直近の情報や現物に値段がつくことが多い。一方で予報士という職業は、未来を扱う仕事なのである。それは、「仮説」と「検証」を通じて意思決定をサポートすることで成り立つ仕事でもある。予測の仮説は、当然、実際の天気で検証が行われる。いわゆるPDCAサイクルがある。
私はこの取材の前後で、一連の「予報士」という職業への見え方が変わった。これらの職業は面白い。未来は、誰にとっても不安だし、希望だからだ。この職業は無限の可能性を秘めていると感じた1時間だった。
斉田季実治◎1975年、熊本県出身。NHK「ニュースウオッチ9」気象キャスター、ヒンメル・コンサルティング代表取締役、ABLab宇宙天気プロジェクトマネージャ。北海道大学で海洋気象学を専攻し、気象予報士資格を取得。報道記者として自然災害の現場を数多く取材後、民間気象会社で経験を積み、06年からNHKで気象キャスター。防災士、危機管理士1級。撮影は、東急文化会館にあったカールツァイスIV型投影機前にて。斉田氏がよくオフの時間にプラネタリウムを訪れる「渋谷区文化総合センター大和田」に移設された。
北野唯我◎1987年、兵庫県生まれ。作家、ワンキャリア取締役CSO。神戸大学経営学部卒業。博報堂へ入社し、経営企画局・経理財務局で勤務。ボストンコンサルティンググループを経て、2016年、ワンキャリアに参画。子会社の代表取締役、社外IT企業の戦略顧問などを兼務し、20年1月から現職。著書『転職の思考法』『天才を殺す凡人』『仕事の教科書』ほか。近著は『これから市場価値が上がる人』。