中国では銀行の破綻こそ起きていないものの、起きている現象は驚くほど日本の1990年代に似ている。中国の不動産バブルは、地方政府が民間の不動産業者と融資平台という投資会社を多く設立した。銀行からの融資や投資家への高金利債券(理財商品)を発行して得た資金で、多くの居住用マンションや商業ビルを建設した。都市への人口流入が続き、人々が豊かになっていく過程では、建物が立つ前から住宅は売れ、購入者は居住前から住宅ローンを支払うようになっていた。しかし、バブルには終焉がある。コロナ前から建てても住人がいないゴーストタウン(鬼城)の存在が報道されるようになっていた。不動産会社の債務不履行や債務超過が大々的に報じられるようになったのは、ゼロコロナ政策が終わってからである。
日本との違いもある。不動産業界への貸し出しが不良債権化して、不動産バブル破裂のツケが銀行業に波及した場合、日本では銀行への資本注入が、銀行側の抵抗と政治側の反発により、必要と認識されてから数年かかったのに比べて、中国の場合には政府指導下なので、中央政府が決断すれば、すぐにでも銀行への資本注入を前提に、不動産会社の破綻・債権放棄・再生を行うことはできる。
中国の不動産開発には地方政府が深くかかわっているところも日本との違いである。不良債権問題は地方政府の財政破綻につながるおそれがある。
日本の教訓は、問題が小さいうちに処理を進めるということである。ゾンビを繁殖させてはいけない。
伊藤隆敏◎コロンビア大学教授 ・ 政策研究大学院大学客員教授。一橋大学経済学部卒業、 ハーバード大学経済学博士(Ph. D取得)。1991年一橋大学教授、2002〜14年東京大学教授。近著に『Managing Currency Risk』(共著、2019年度・第62回日経・経済図書文化賞受賞)、『The Japanese Economy』2nd Edition(共著)。