国内

2023.09.27 11:45

処理水放出の風評被害を防げ 「食べチョク」がいち早く漁師支援に乗り出した理由

大柏 真佑実
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生産者と消費者の距離をなくしたい

東日本大震災、福島第一原発の事故後、福島県の漁協は国の基準値の半分という厳しいセシウムの自主規制値を設定し、水揚日ごとに漁協に出荷予定の全魚種で検査を実施。それをクリアした水産物のみを出荷するという、涙ぐましい努力を積み重ねてきた。しかし、震災から10年以上を経た今もなお、福島県の水産物を買い控える層が存在すると、秋元は顔を曇らせる。

「背景には、『分からないから怖い』という感情があるのだと思います。今は生産者と消費者との距離が開いていて、多くの場合、消費者の方はどんな人が魚を育て、獲っているのか分からないし、想像もできない。例えば親戚に漁業者さんがいて、『安全だから大丈夫だよ』と言われた時と、都会暮らしでメディアなどから流れてくる情報だけを見た時とでは、温もりや信頼感など、感じ方に大きな差が生まれるんです。私たち産直のプラットフォーマーだからできることは、両者の距離をなくすことです」(秋元)

食べチョクでは、取引を通じて直接、生産者と消費者がメッセージをやり取りできる。今回のような非常事態でも、生産者から消費者へ情報を発信したり、消費者から生産者に応援のメッセージを送ったりすることが可能だ。さらに秋元は、第三者ではなく、漁業者自ら安全性を伝えていくことが大切だと語る。

「特に東北の漁業者さんの中には、獲った水産物が本当に安全なのかと、ご自身で不安に感じられているため、ご自分でしっかりと検査をして、結果とともに商品を届けていきたいという方もいらっしゃいます。当社でもイベントやサービスサイトを通じて、漁業者さんに情報発信いただく場を積極的に設けていきたいと考えています」(秋元)

他方で、秋元は生産者が複数の販路を持つ重要性も説く。

「例えば、スーパーで季節に関係なく多くの種類の食材が並ぶのは、複数の中間業者を通す従来の流通方法だからできることです。食の安定供給を支える既存の流通と、生産者と消費者を近づける産直。両方の選択肢を生産者が持つことによって、今回のような非常事態にもダメージを最小限にとどめ、安定して収益を上げていけるようになります。一方の消費者も、必要に応じて購入方法を選べる。それが理想です」(秋元)

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文=大柏 真佑実

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