そうした中、放出開始翌日の8月25日から、いち早く福島県の漁業者への支援を開始したスタートアップがある(※1)。産直通販サイト「食べチョク」を運営するビビッドガーデンだ。中国や韓国が強い懸念を示し、多くの企業が経済への影響や政府の対応などを様子見する中、なぜ同社は業界に先駆けて動き出したのか。そして、同社が消費者から得た意外な反応とは。
※1… 8月28日からは全国の漁業者に対象を拡大
忘れられない、ある農家の存在
「処理水放出については、メディアや省庁などとのやり取りを通じて、今年中に開始されるという予定を把握はしていました。だけど、こんなにいきなり決まって、始まるとは思っていなかったので驚きました」そう語るのは、「食べチョク」を運営するビビッドガーデン代表取締役社長の秋元里奈だ。「食べチョク」は、農業を始め漁業、生花などの生産者と消費者とを直接結ぶ産直のプラットフォームだ。秋元は、自然災害やコロナ禍によって大きなダメージを被ったことが要因となり、廃業を選ぶ生産者が後を絶たない状況があると指摘する。秋元には、一軒の忘れられない農家がある。
「食べチョクのサービス立ち上げ当初、なかなか農家さんに話を聞いてもらえず、受け入れてもらえない状況が続いていました。そんな中、ようやく協力してくださる農家さんにお会いできて、すごく感謝していたんです。だけど後にその農家さんが台風で大きな被害を受けてしまい、私たちも微力ながら支援をさせていただきましたが、結局、廃業されてしまいました。私の中では、それがものすごく悔しい体験として残っていて。だからこそ今回も何より早く、自分たちにできる支援をしようと思いました」(秋元)
今回の処理水放出にあたり、食べチョクでは影響が懸念される漁業者に対して、水産物の「優先審査および出品サポート」や「早期入金」、「アンケート調査」を実施。8月31日からは、水産物の1注文あたり500円の商品代を、食べチョクが負担する応援プログラムも開始した。
「放出の予告を受け、すぐにヒアリングを行いました。その結果、漁業者さんが大きな不安を抱えている状況が見える一方で、消費者の方からはそんな漁業者さんを応援したいという声が聞こえてきていました。そのためプラットフォーマーとして、まずは正しい情報を早く両者に伝えて、安心してもらいたいという気持ちが強かったですね」(秋元)
実際、同社が8月25日から全国の漁業者と消費者を対象に実施したアンケート調査(※2)では、処理水放出を受けて、6割超(65.7%)の漁業者が売上への影響を不安視。にも関わらず消費者については、半数超(54%)が食品への影響を懸念しておらず、6割近く(59.8%)が生産者への風評被害を懸念しているという結果に。それを見た漁業者からは、不安が和らいだという声も聞かれたという。
漁業者への調査結果
※2… 漁業者向け調査は、8月29日から実施
消費者への調査結果
「報道や政府の働きかけによって、消費者には今回の処理水放出の安全性を理解している方が多く、アンケートで質問を投げかけると、『安心していない前提で聞かないでください!』などと思いがけずお叱りをいただくこともありました」(秋元)