北米

2023.09.25 12:30

「核のボタン」を独占する大統領、浮き彫りになる米戦略のパラドックス

遠藤宗生

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米政府は核戦力の包括的な刷新に取り組んでおり、戦略抑止力の3本柱である兵器システムをすべて更新し、それらを制御する司令ネットワークの高度化を進めている。

核の指揮・統制・通信システム(NC3)は、核戦略態勢の中で最も目立たないと同時に、最も複雑な部分だ。独立した200超のプログラムで構成され、一部は非核戦力の指揮も担う。

核戦力の指揮統制は、戦争抑止に不可欠である。元核ミサイル発射管制官で安全保障政策に詳しいブルース・ブレアが1985年発行の著書で述べたように、「指揮統制が失敗したら他のことはどうでもよくなる」のだ。

ロシアが戦略兵器として多数保有している核弾頭は、1発でニューヨークなど大都市圏の93平方kmを壊滅させられる。ロシアは、米本土に到達可能な核弾頭を少なくとも1550発保有している。

中国は長年自制してきたが、現在は核戦力を拡大している。

米政府はとうの昔に、自国を狙った大規模な核攻撃を迎撃する努力を放棄した。ロシアと中国が保有する兵器の破壊力は対抗するにはあまりに恐ろしく、張り合えば軍拡競争を引き起こすと米国の指導者たちは懸念したのだ。

よって、米国の存続は、報復措置の警告による抑止力にかかっている。抑止戦略の基本的な戒めは、報復により「耐え難い損害」を被るとわかっていれば侵略者も攻撃してはこないというものだ。

しかし、敵対国に「耐え難い」破壊をもたらすことが可能な兵器を保有するだけでは、抑止力は機能しない。攻撃をいち早く検知し、攻撃元を特定し、相手側の攻撃に釣り合った核反撃を行えるNC3システムが必要となる。

報復の脅威に真実味を持たせるには、スピードと釣り合いが肝心だ。米国が迅速に対応できなければ、兵器の大半が発射前に破壊されてしまうかもしれない。だが慎重に対応しなければ、限定的な攻撃が全面戦争に発展する恐れがある。

米核戦略の包括的な目標は、核戦争を始める合理的な理由を敵から奪うことによって、その発生を防ぐことである。核戦力は、激変する紛争のさなかでも存続し、運用可能でなければならない。同時に、マーク・ミリー統合参謀本部議長が2021年に述べたような「違法、無許可、偶発的な発射」は決して起こらないと、敵対国や同盟国が確信できなければならない。

つまり、米国の核態勢は、極めて安定した状態を保ちつつ奇襲攻撃にも計画的かつ果断に対応できるものでなければならないのだ。

この事実は、核兵器統制の必要性と緊急時に迅速に行動する必要性を両立させようと政策立案者が苦慮する中で、核態勢に根本的なパラドックスを生んでいる。
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翻訳・編集=荻原藤緒

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