正恩氏の乗った特別列車を追っていた日米韓の政府当局が驚きの声を上げたのが12日昼。列車が会談場所の一つとして予想されていたウラジオストクに向かわず、更に北のウスリースクも通過し、ひたすら北に向かったからだ。結局、会談場所は宇宙基地になった。今年、軍事偵察衛星の発射に2度失敗した北朝鮮の状況から、ロシアが北朝鮮に宇宙開発で協力するサインだという受け止めがあったが、別の理由もあったようだ。正恩氏の安全確保だ。
米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT/電子版)が、金正恩氏がロシア極東ウラジオストクを訪れ、プーチン大統領と会談する計画だと報じたのは今月4日だった。韓国政府関係者は「米国による情報抑止戦略だと思う」と語る。米国は、ウクライナ侵攻で弾不足に陥ったロシアが、北朝鮮に武器の供与を求めていると再三言及してきた。この関係者は「あえて、正恩氏の訪ロ情報をメディアに流し、訪ロを思いとどまらせようとしたのではないか」と語る。ロシアのウクライナ侵攻直前、米国が侵攻関連の情報を流してロシアに侵攻を思いとどまらせようとした手法と同じだ。
北朝鮮の指導者は非常に臆病だ。だから、攻撃されたり工作されたりしたら逃げ場がない空路よりも陸路を好む。正恩氏は実際、NYTが報じたウラジオストクには向かわなかった。報道をみて危機感を覚えた北朝鮮側が会談場所の変更を申し入れたのかもしれない。別の見方をすれば、身の危険も顧みず、正恩氏にはプーチン氏と会わなければならない理由があったとも言える。
各メディアが指摘しているのは、北朝鮮は武器を売る対価として、原子力潜水艦や軍事偵察衛星の技術協力を求めるというものだ。だが、本当に北朝鮮は真剣なのだろうか。航空総隊司令官を務めた武藤茂樹元空将は軍事偵察衛星について「低軌道で日本や朝鮮半島を5分間隔で撮影しようとすれば、単純計算で衛星が200機程度必要になるとの試算もある」と語る。原潜についても防衛省関係者は「北朝鮮がたとえ原潜の建造に成功しても、定期的な炉心交換など、莫大な費用と高度な安全管理が必要になる」と指摘する。