スポーツ

2023.09.24 17:00

なでしこ「10番」をつないだ岩渕真奈のサッカー人生

坂元 耕二
ブームが下火になっていく状況を何とか食い止めたいと、世界一を知る数少ない存在になった岩渕は奮闘し続ける。その間の代表戦では、背番号「8」をつける機会が多かった。しかし、これには明確な意図が込められていた。

「なでしこの象徴的な『10番』といえば、やはり澤さんになる。彼女の後に『10番』を背負う選手は、私のなかでもとても重い意味があった。チームの発足当時から岩渕は候補の一人でしたが、どの選手もそうですけど、チームを背負う顔になるためにはピッチ上のパフォーマンスのみならず、人間的にも成熟したときだと思ってきました。なので、意図的に『8番』を背負ってもらい、成長を待っていました」

こう語っていた高倉監督が、機は熟した、と判断したのは、コロナ禍で開催が21年に延期された東京五輪直前。澤と交わした約束のひとつ、なでしこの「10番」を初めて背負った岩渕は、開幕が近づくなかでこんな言葉を残している。

「特別な背番号であることは間違いので、意識しないように言い聞かせてきて、それでも多くの方に言われて少しずつ意識しちゃっていたんですけど……いろいろな責任を背負いながらチームを引っ張っていって、最後に笑顔で終われるようにしたい」

悔いはない──、の意味

自国開催の五輪は準々決勝で終焉を迎えた。グループリーグを1勝1分け1敗と苦しみながら突破したなでしこは、スウェーデンに完敗した。

「内容どうこうよりも結果がすべての世界なので。女子サッカーが発展していく上で、代表は強くなきゃいけない。この悔しさをしっかりと次へつなげていきたい」

東京五輪では全4試合に出場。カナダとの初戦では引き分けに持ち込むゴールを決めて「10番」の意地を見せた。しかし、歴代6位となる代表通算36ゴール目が、岩渕がなでしこで決めた最後のそれになった。

東京五輪後、戦いの場をイングランドへ移していた岩渕は招集されるたびに、池田太監督から「10番」を託され続けた。しかし、なでしこで紡がれてきた軌跡は4月のデンマークとの国際親善試合を最後に途切れた。

今夏にオーストラリアとニュージーランドで共催された、女子W杯でベスト8に進んだなでしこに岩渕の名前はなかった。落選した翌日には、契約満了に伴う退団がアーセナルから発表された。そして、9月1日の電撃的な引退発表を迎えた。

両足首の手術を受けて臨んだ昨シーズン。思うようなプレーができないジレンマは、今年1月にアーセナルからトッテナム・ホットスパーへ期限付き移籍しても消えない。もがき苦しんだ過程で、引退の二文字が次第に大きくなってきた。

「現役でプレーする間は常に上を目指す、という自分が求めるプロ選手のあり方に反していたというか。サッカーを続けても自分がやりたいプレーができないと感じたタイミングでもあったので、寂しくないわけではないですけど後悔はありません」
次ページ > 澤の登場に感極まる。

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