『マナドーナ』の出現
日の丸が刺繍されたスパイク、サッカーボールと、なでしこジャパンのユニフォーム。これらを芝生の上に並べた写真を投稿した自身のインスタグラムで、岩渕真奈は9月1日に現役引退を表明した。まだ30歳。突然の報告に誰もが驚いた。この時点で引退する理由は明かされていない。ただ、写真には岩渕のメッセージが込められていた。ユニフォームは背中の部分を見せ、スパイクに隠される形で全部は見えていないものの、背番号は「10」だと確認できる。
プレー面だけでなく精神面でもチームの大黒柱を担う、特別な選手に託される「10番」と必死に向き合いながら、岩渕は14歳から女子サッカーの第一線で戦ってきた。
都立高校の3年生だった2010年シーズン。当時所属していたなでしこリーグの日テレ・ベレーザで、岩渕は17歳という若さで「10番」を託されている。「逸材」への期待が背番号に反映されていた。
08年秋にニュージーランドで開催されたU-17女子W杯。若き日本女子代表をテクニック、スピード、俊敏さ、類稀な得点感覚でけん引したのが当時15歳の岩渕だった。
日本は準々決勝で敗れた。それでも国際サッカー連盟は、岩渕を早期敗退チームでは異例の大会MVPに選出した。男子サッカーのレジェンド、ディエゴ・マラドーナと岩渕の名前をかけて「マナドーナ」と呼ばれたのもこの頃だった。
世界に衝撃を与えた大会で岩渕が背負った10番を、ベレーザは2年後に託した。しかし、わずか1年で背番号は「13番」に変更されている。オフに岩渕との間でかわされたやり取りを、当時のフロント幹部はこう語っていた。
「岩渕本人の強い希望で変更しました。まだベレーザの中心選手ではないし、周りの選手からの信頼も得られていないので、背番号を変えてほしいと言ってきたので」