星にまつわる重層的な文化がある国「日本」
その理由の一つとして考えられるのは、背景にある日本の文化です。日本では、古くは江戸時代から人々の識字率がその当時の海外の国々と比べて格段に高かったことや、記録によるとすでに江戸時代には学者が望遠鏡を用い、一般の人々を対象に星を見る会などを行い、そこには人だかりができていた、などということを考えると、基本的に広く庶民が読み書きや計算を覚えたり、人生を通して学び続けるようなことが大切にされていたように感じます。日本に公開天文台がたくさん存在するという背景には、そこに共通した文化の存在が有ったことが推測されます。
こうしたことから、日本の天文文化と海外の天文文化を実際に比較してみようということで、私たち南阿蘇ルナ天文台では、手始めにアメリカ国内の歴史的な、そして現在も精力的に活動している天文台や、天文台のある類似施設を調査することとなりました。旅のくわしいお話は次回に譲るとして、その調査の結果、以下のような特徴が見えてきました。
-アメリカの公開活動をしている天文台の多くは、元々は学術的な研究施設としての天文台だった
-日本と違って、生涯学習の場と言うよりは、天文台でのプログラムの想定対象が狭い範囲に設定されている(例えば、小学5年生くらいの児童といったような具体的な設定)
-解説者がお客様に一方向で解説しコンテンツを示すというレクチャー型が多い
-施設の運営や存続に関わるステークホルダを強く意識して、運営計画が行われている
-天文施設間の協力関係が希薄で、JAPOSのような組織は見当たらない
まだ少ない調査例での話なので、これからのさらなる調査が必要ですが、日本では公開天文台や星にまつわる重層的な文化が独自に発展しているという状況がありそうです。以上述べて来たことは、他の国々も含めた継続的な調査が待たれる理由であり、その成果によっては「日本型公開天文台モデル」の確立や国際的評価の獲得、そして今後の展開への期待が高まるかも知れません。
長井知幸(ながい・ともゆき)◎宇宙物理学者。大学、大学院とアメリカで高エネルギー宇宙物理関連の教育を受け、物理学Ph.D.を取得。ハーバード・スミソニアン天体物理学センターが主導する国際的コラボレーション、ガンマ線望遠鏡の天文台建設と運用に参加する。完成後はアリゾナ州の荒野で巨大な望遠鏡郡を操作し、ブラックホール、活動銀河中心、スターバースト銀河などを観測、宇宙における高エネルギー現象を研究。20年間のアメリカ生活後は九州大学で再生可能エネルギーなどの研究に参加。現在は熊本県阿蘇郡にある公開天文台「南阿蘇ルナ天文台」次世代型天文台開発ディレクター(写真は南阿蘇ルナ天文台に併設されるホテルのレストランで)。