宇宙

2023.10.13

世界一の公開天文台王国、日本。宇宙物理学者が思う「竹取物語」とのかかわり

南阿蘇ルナ天文台「星見ヶ原」(写真提供:南阿蘇ルナ天文台)

日本には、利用者のウェルビーイングの向上を主目的としたユニークな天文台、「公開天文台」が数多くあることをご存じだろうか。

宇宙物理学者であり、熊本県阿蘇郡にある公開天文台「南阿蘇ルナ天文台」の次世代型天文台開発ディレクターでもある長井知幸氏に以下、公開天文台とは何か、どんな日本的な文化が公開天文台を生んでいるのかについてご寄稿いただいた。


目指すは研究活動より「ウェルビーイングの向上」


日本で最古の物語といえば、1000年以上前に書かれた「竹取物語」。ご存知、特別な能力を持ち、空を飛ぶ乗り物でお月さまに帰っていく美しいかぐや姫のお話です。日本最古のお話が、いわば今日のサイエンスフィクションのようだという背景に、日本人が古来より夜空の月や星に格別の興味関心を持っていた様子が伺えます。

さて、「公開天文台」という施設をご存知でしょうか? みなさんが想像する天文台といえば、科学者が宇宙の謎を最先端の巨大望遠鏡で探求する施設、というようなものでしょうか。日本でもそのような施設はありますし、欧米では天文台といえばその通りのイメージのものが多いかもしれません。ハワイのマウナケア山頂にある日本の国立天文台すばる望遠鏡などは、その典型ですね。

日本では、一般のお客様を対象に、誰でものぞける望遠鏡を使って解説員が天文を解説するサービスを行う天文台が、300施設以上あります。そのような望遠鏡を使った公開活動を中心に行う施設は「公開天文台」と呼ばれています。公開天文台は研究活動そのものよりも、星空や天体を通した生涯学習の機会を提供し、その利用者の豊かな人生に資すること(ウェルビーイングの向上)などが主な目的とされています。

筆者が次世代型天文台開発ディレクターを務めるルナ天文台ドームと天の川

筆者が次世代型天文台開発ディレクターを務めるルナ天文台ドームと天の川



世界を見回しても、このような公開天文台が300施設を超える日本は、まさに世界一の公開天文台王国と呼べるのではないでしょうか。

創立1926年、最古の公開天文台は「倉敷天文台」


日本で最初の公開天文台は、1926年に創立された倉敷天文台で、3年後の2026年には公開天文台100周年を迎えます。このような公開天文台が組織されている「日本公開天文台協会(JAPOS)」は、その社会的地位の向上や天体観察会における解説技術の向上など、様々な活動を行っています。

倉敷天文台ドーム内

倉敷天文台ドーム内

倉敷市の天体望遠鏡が倉敷市指定の歴史資料であることを示す立看板

倉敷市の天体望遠鏡が倉敷市指定の歴史資料であることを示す立看板


筆者は宇宙物理学者として、アメリカにおいて荒野の中にそびえ立つ望遠鏡群の建設や、それを使った観測に長くたずさわっていたのですが、「公開天文台」という存在はあまり聞き慣れない存在でした。そんな公開天文台に興味があり、現在はその一つである南阿蘇ルナ天文台で活動しています。
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文=長井知幸 編集=石井節子

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