「BBCが初めて」ではなかった
かねてくすぶっていたジャニーズ事務所の創業者、ジャニー喜多川氏による性加害問題は、イギリスのBBCによるドキュメンタリー番組の放映、国連人権理事会の「ビジネスと人権」作業部会による調査などによって再燃し、今や全世界で報じられている。ただしBBCにしても国連にしても、一連の性加害問題に海外から初めて切り込んだ組織ではない。遡ること1999年の『週刊文春』による告発キャンペーンを受けて、『ニューヨークタイムズ』『ガーディアン』などは2000年の時点でこの問題を報じていたのだ。
『ニューヨークタイムズ』が喜多川氏の性加害問題を最初に扱ったのは2000年1月。『週刊文春』の発行元である文藝春秋とジャニーズ事務所の法廷闘争が始まってから2ヵ月ほど経った頃だ。筆者のカルビン・シムズ氏は当時『ニューヨークタイムズ』の特派員であり、現在はCNNの上級副社長に収まっている。
「性、皇室、右翼団体といったデリケートなテーマに日本のメディアは及び腰」
シムズ氏は2000年1月の記事で、まず梨元勝氏(芸能リポーター)と藤田博司氏(共同通信元論説副委員長、上智大学文学部新聞学科教授)の2氏を訪ね、日本特有のメディア事情について問いかけている。これに対する梨元氏と藤田氏の回答は注目に値する。というのも、両氏は2000年の時点でこの問題の根深さについて次のように答えているのだ。https://archive.nytimes.com/www.nytimes.com/library/world/asia/013000japan-talent.html
「ジャニーズ事務所の意向に従わないと、所属タレントが軒並み番組から降り、彼らにインタビューすることもできなくなる。そうなったら、各テレビ局の視聴率は急落するだろう。紙媒体についても同じことがいえる」(梨元氏)
「性、皇室、右翼団体といったデリケートなテーマに日本のメディアは及び腰である。幅広い報道が期待できるのは、当局が喜多川氏の捜査に乗り出した場合のみだ」(藤田氏)
「私をはじめとするメディアがもっと前に、特に北公次氏の告発本が最初に出版された時に、被害を訴える人々をしっかり取材していれば、ほかの青少年たちは被害に遭わずに済んだかもしれない」(梨元氏)